大阪府立大学

遷移金属酸化物の近藤効果を初めて実証―電子相関物性の設計・探索の新たなプラットホームを開拓―

更新日:2022年1月31日

図1の画像

図1:理論計算から得られた、銅(Cu)のスピン応答(縦軸)と温度(横軸)の関係。温度が下がると近藤効果が起こり、スピン応答が減少していく様子が確認できる。

本学 大学院 工学研究科 播木 敦 助教、博士前期課程 1年 加瀬林 啓人さん、早稲田大学 理工学術院 溝川 貴司 教授、京都大学 化学研究所 島川 祐一 教授、広島大学 田中 新 准教授らは、マックスプランク研究所 Liu Hao Tjeng 教授、ウィーン工科大学 Jan Kuneš 教授らのグループと共同で、銅(Cu)とルテニウム(Ru)からなる酸化物(CaCu3Ru4O12)のX線光電子分光(解説1)を測定し、独自に開発した計算パッケージを用いて、高精度な理論解析を行いました。

その結果、CaCu3Ru4O12では、遷移金属の酸化物ではほとんど報告例がない近藤効果(解説2)が実現していることを初めて実証しました(図1)。

近藤効果は、電気抵抗がゼロになる超伝導現象や電子の質量が有効的に異常増大する重い電子現象など、様々な量子物性の発現メカニズムと密接な繋がりがあります。

今回の結果は、近藤効果が実現する遷移金属酸化物の物質群(四重ペロブスカイト遷移金属酸化物、(解説3))の存在を示唆するもので、更なる物質合成を進めることで、近藤効果に由来する新奇物性の発見が期待されます。

なお、この成果は、米国物理学会が刊行する学術雑誌「Physical Review X」にて、1月27日(日本時間)にオンライン掲載されました。

論文タイトル「CaCu3Ru4O12: A High Kondo-Temperature Transition Metal Oxide」

本研究のポイント

  • ペロブスカイト遷移金属酸化物CaCu3Ru4O12のX線光電子分光実験データを測定し、最新の量子理論手法を用いて解析した結果、近藤効果が実現していることを実証した。
  • 希土類化合物だけでなく、遷移金属酸化物でも近藤効果が発生することを示した。
  • 今後、遷移金属酸化物の構成元素を制御することで、近藤効果が紡ぎ出す磁気応答や超伝導、重い電子状態などの新奇量子物性の発見が期待される。

研究者からのコメント

工学研究科 電子・数物系専攻 電子物理工学分野 博士前期課程 1年 加瀬林 啓人 さん

卒業研究からこのようなチャレンジングで国際的な研究に携われて光栄です。これを期に遷移金属酸化物での近藤現象が活発に研究されるようになってほしいと思います。

この研究を通じてご指導いただいた共同研究者の皆様に心から感謝いたします。

今後も世の中に貢献できるよう精進してまいります。

SDGs達成への貢献

SDGs7番と9番のアイコン

大阪府立大学は研究・教育活動を通じてSDGs17(持続可能な開発目標)の達成に貢献をしています。

本研究はSDGs17のうち、「7:エネルギーをみんなにそしてクリーンに」、「9:産業と技術革新の基盤をつくろう」等に貢献しています。

研究助成資金等

本研究の一部は、科学研究費助成事業(科研費)(21K13884、19H05823 and 20H00397)、研究拠点形成事業(A.先端拠点形成型)、European Research Council(No.646807-EXMAG)、Deutsche Forschungsgemeinschaft (No.320571839) and SFB 1143 (No.247310070)、 からの支援を受けて行われました。

用語解説

解説1 X線光電子分光

X線を物質に照射すると、アインシュタインの発見した光電効果により、光電子が物質の表面から放出されます。この光電子の運動エネルギーを精密に測定することで、物質内部の構成元素の周りを運動している電子のエネルギー状態(バンド構造)を調べることができます。これをX線光電子分光と呼びます。

解説2 近藤効果

通常の金属は温度を下げると、原子の熱振動が抑制されるため、電気抵抗が減少します。しかし、磁性を持った不純物原子(例えば、ニッケルや鉄原子)が金属の中に存在した場合、温度を下げるとある温度以下で電気抵抗が上昇に転ずる場合があります。この現象そのものは1930年代から知られていましたが、その微視的な説明は1964年に近藤淳博士によって初めて与えられ、「近藤効果」と呼ばれています。

解説3 四重ペロブスカイト遷移金属酸化物

四重ペロブスカイト遷移金属酸化物は、一般式AA’3B4O12で表され、A’とBに遷移金属元素が入ります。Aには、アルカリ金属、アルカリ土類金属などのイオンが入ります。広く普及している従来のペロブスカイト遷移金属酸化物(一般式ABO3)と比べて、2種類の遷移金属元素が含まれ、その間の電荷やスピンの相互作用が新たな自由度として働き、多彩な物性が現れることが知られており、精力的に研究が行われています。

お問い合わせ

大阪府立大学 大学院 工学研究科

助教 播木 敦(はりき あつし)

Eメール hariki[at]pe.osakafu-u.ac.jp [at]の部分を@と差し替えてください。