メモリ素子への応用に期待! 強誘電体の帯電ドメイン壁の構造を原子スケールで可視化
更新日:2021年11月17日

(左図)帯電ドメイン構造の原子分解能走査透過電子顕微鏡像(Ps:分極方向)、(右図)帯電ドメイン壁での結晶構造
本学 大学院 工学研究科 森 茂生 教授、塚崎 裕文 特任准教授、中島 宏 特任助教、松岡 雅也 教授、北海道大学 峯 真也 さん、東レリサーチセンター 久留島 康輔 さん、ラトガース大学 Sang-Wook Cheong 教授、テキサス大学 Bin Gao さんらの研究グループは、原子分解能を有する先端的走査透過型電子顕微鏡を用いて、強誘電体(解説1)の帯電ドメイン構造を直接観察することに成功しました。
本研究成果により、これまで安定に存在しないと考えられていた強誘電体における帯電ドメイン構造(Charged domain structures)の形成メカニズムが明らかになりました。
研究グループでは、様々なアルカリ希土類元素および遷移金属元素を置換元素として用いた試料を作製し、その解析を行うことで帯電ドメイン壁の安定化機構の解明を発展させる予定です。
このような結果は、デバイス応用に必要な強誘電体材料中に、意図的に帯電ドメイン壁を生成させた材料の開発につながります。帯電ドメイン壁の制御が置換元素によって可能になれば、メモリ素子への応用も期待されます。また、マクロな強誘電物性とその要因について多角的に解析し、強誘電デバイスの実用化に貢献することをめざします。
本研究成果は英国科学誌の「Communications Materials」において、2021年11月2日18時(日本時間)にオンライン掲載されました。
本研究のポイント
- エネルギー的に不安定であると考えられていた帯電ドメイン構造が、なぜ物質内で安定に形成されるかを第一原理計算(解説2)と原子分解能走査透過型電子顕微鏡観察により明らかにしました。
- 帯電ドメイン壁(解説3)において、Sr2+イオンが偏析するとともに原子配列に乱れが生じ、電荷蓄積が抑制されていることが明らかになりました。
研究者からのコメント

(左から)森 茂生 教授、塚崎 裕文 特任准教授、中島 宏 特任助教
最先端の電子顕微鏡を用いて、強誘電体のドメイン構造を原子スケールで解明した成果です。本研究で明らかになったドメイン境界の構造は非常に珍しく、その電荷状態や発現メカニズムが注目されています。
SDGs達成への貢献
大阪府立大学は研究・教育活動を通じてSDGs17(持続可能な開発目標)の達成に貢献をしています。
本研究はSDGs17のうち、「7:エネルギーをみんなにそしてクリーンに」「9:産業と技術革新の基盤をつくろう」等に貢献しています。
研究助成資金等
本研究の一部は、科学研究費助成事業(科研費)基盤研究(JP21H04625, JP19H05625, JP19H05814)、若手研究(JP21K14538)、村田学術振興財団研究助成からの支援を受けて行われました。
用語解説
解説1 強誘電体
酸化物絶縁体において、物質を構成する陽イオンと陰イオンが自発的に変位し、大局的に大きな電気分極を生じる物質。このような電気分極は、電場によってその向きが制御可能である。代表的な物質は、BaTiO3やPb(Zr、Ti)O3といったペロブスカイト構造を持つ物質であり、メモリや圧電素子として、日常生活で用いられている。
解説2 第一原理計算
量子力学に基づいて、物質の電子状態やエネルギーを経験的なパラメータを用いずに計算する手法。最も安定な結晶構造や元素の置換の可能性を理論的に予測することが可能。
解説3 帯電ドメイン壁
強誘電体のドメイン境界において、2つのドメインの電気分極が向かい合って存在している境界を指す。このような境界は、電荷が蓄積されるため、電場を生じる。それゆえ、電気抵抗が局所的に制御可能で、デバイスの実証が行われている。しかし、その電荷ゆえに、このような境界は安定ではなく、一般的な強誘電体では、90度及び180度ドメイン境界が観察される。
関連情報
お問い合わせ
大阪府立大学大学院 工学研究科
教授 森 茂生(もり しげお)
Tel 072-254-9318 Eメール mori[at]mtr.osakafu-u.ac.jp [at]の部分を@と差し替えてください。