大阪府立大学

全固体電池は新しいフェーズへ! 高エネルギー密度のリチウム硫黄二次電池を可能とする「正極」を開発 ―リチウムイオン電池を凌駕する次世代型全固体電池の実現に期待―

更新日:2021年10月28日

全固体電池は新しいフェーズへ!高エネルギー密度のリチウム硫黄二次電池を可能とする「正極」を開発―リチウムイオン電池を凌駕する次世代型全固体電池の実現に期待―

図 硫化リチウム正極、固体電解質層、負極から構成されている全固体リチウム硫黄二次電池(左上)、硫化リチウム正極は硫化物固体電解質粒子と硫化リチウム、Li+イオン伝導体、炭素からなるナノ複合体粒子から構成されています。ナノ複合体中のLi+イオン伝導体の分解耐性(右上)およびイオン伝導性(右下)が、硫化リチウムの性能に影響することを明らかにしました。

本学 工学研究科 物質・化学系専攻の林 晃敏 教授、作田 敦 准教授、計 賢 博士 (現:関西大学 特別任命助教)、博士前期課程 2年 藤田 侑志さん、辰巳砂 昌弘 学長らの研究グループは、次世代蓄電デバイスである全固体リチウム硫黄二次電池の実現に向けて、硫化リチウム正極活物質の容量と固体電解質の分解耐性の関係を明らかにしました。そのメカニズムに基づき、高エネルギー密度(解説1)な全固体リチウム硫黄二次電池を実現できる正極の開発に成功しました。

固体電解質は液体電解液と比較して密度が大きく、単一の電池あたりで従来のリチウムイオン電池を超えるエネルギー密度の全固体電池の実現は困難であると言われています。

この研究はリチウムイオン電池のエネルギー密度を超える全固体電池の実現可能性を世界に先駆けて示すものであり、電気自動車だけでなくポータブル電子機器や航空機などの用途拡大に向けた全固体電池の研究開発を大きく加速させるものと期待されます。

なお、本研究は出版社Wileyが刊行する学術雑誌「Advanced Functional Materials」に10月28日(日本時間)にオンライン掲載されました。

論文タイトル「Solid electrolyte with oxidation tolerance provides a high-capacity Li2S-based positive electrode for all-solid-state Li/S batteries」

硫化リチウム正極、固体電解質層、負極から構成されている全固体リチウム硫黄二次電池(左上)、硫化リチウム正極は硫化物固体電解質粒子と硫化リチウム、Li+イオン伝導体、炭素からなるナノ複合体粒子から構成されています。ナノ複合体中のLi+イオン伝導体の分解耐性(右上)およびイオン伝導性(右下)が、硫化リチウムの性能に影響することを明らかにしました。

本研究のポイント

  • 硫化リチウム正極活物質(解説2)と固体電解質(解説3)の分解耐性(解説4)の関係を解明
  • 分解耐性の高い固体電解質を含有する硫化リチウム正極の開発に成功し、リチウムイオン電池のエネルギー密度を超える全固体リチウム硫黄二次電池(解説5)が実現可能に
  • 電気自動車、ポータブル電子機器、航空機等への全固体電池の応用拡大に期待

研究者からのコメント

作田准教授 林教授

(左から)作田 准教授、林 教授

全固体電池は、従来のリチウムイオン電池に比べ「安全性」「高エネルギー密度」「長寿命」を兼ね備えた究極の電池です。

我々「無機化学研究グループ」は、1980年代から続く南 努 元学長、辰巳砂 昌弘 現学長らの先駆的な無機材料化学の研究の流れを開花させ、全固体電池の新たな時代の扉を開きました。

SDGs達成への貢献

大阪府立大学は研究・教育活動を通じてSDGs17(持続可能な開発目標)の達成に貢献をしています。

本研究はSDGs17のうち、「7:エネルギーをみんなにそしてクリーンに」「9:産業と技術革新の基盤をつくろう」等に貢献しています。

研究助成資金等

本研究は、主として国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 先端的低炭素化技術開発・特別重点技術領域「次世代蓄電池」(ALCA-SPRING)(JPMJAL1301)の支援を受けて実施されました。

用語解説

解説1 高エネルギー密度と安全性

固体電解質にすることで電池を積層することが可能になり、その結果エネルギー密度が高められる。従来の液体電解質では、積層しようとすると液が染み込んで電位を上げることできなかった。一つ一つの電池をケースに入れてそれを直列に繋ぐ必要があった。液体を封じ込める必要がなくなったので、液漏れがなくなり信頼性の向上が期待できる。

解説2 硫化リチウム正極活物質

硫化リチウム正極活物質は、電池の正極側でリチウムを出し入れすることによってエネルギーを貯めたり、取り出したりすることができる物質。充電によってリチウムを放出し、放電時にリチウムを受け取る。硫化リチウムの理論容量は、従来の正極活物質の理論容量よりもはるかに大きいが、絶縁体であるため、硫化リチウムを利用するために、多量の導電剤や固体電解質を必要とする。多量の導電剤や固体電解質は蓄電能力がないため、多量の導電剤と固体電解質、硫化リチウムを合わせた正極の容量は、従来の正極活物質を使用したときよりも低下するため、導電剤と固体電解質は可能な限り減少させる必要がある。

解説3 固体電解質

固体中を特定のイオンが高速に伝導する材料を固体電解質という。ここではリチウムイオンの伝導体を指す。従来はイオンの伝導性が注目されてきたが、近年は固体電解質の分解耐性が全固体電池の性能に関する研究開発が活発化している。固体電解質の分解耐性は構成元素によって変化し、主に陰イオンに依存する。この研究では硫化リチウムへのイオン輸送は分解耐性の高い酸化物、正極内のイオン輸送はリチウムイオン伝導性の高い硫化物が使用された。

解説4 分解耐性

硫化リチウム正極は、硫化物固体電解質粒子と高容量活物質の硫化リチウム、イオンの経路のリチウムイオン伝導体、電子の経路の炭素からなる複合体粒子から構成されている。これまでに硫化リチウムと複合化していたイオン伝導性の高い物質は充放電により壊れ易いということを見出して、イオン伝導率が多少低くても壊れない分解耐性の高い物質を硫化リチウムと複合化するためのイオン伝導体として開発した。その結果、充放電時には硫化リチウムと炭素との電子の経路、硫化リチウムとリチウムイオン伝導体とのイオンの経路を十分に確保できるようになった。

解説5  全固体リチウム硫黄二次電池

一次電池は充電することができない繰り返し使用できない電池であり、二次電池は充電することができて繰り返し使用できる電池である。携帯電話やノートパソコン等にリチウムイオン二次電池が広く使われている。二次電池は一般的に正極と負極が固体で正極と負極の間の電解質は液体という構造であり、それらをケースに包んで一つの電池を構成している。その液体の電解質を固体で置き換え、全て固体で構成したのが全固体電池である。電解質が有機電解液、正極が硫黄または硫化リチウム、負極がリチウム金属からなるリチウム硫黄二次電池において、正極材料の反応中間体が有機電解液に溶出することで、リチウム硫黄二次電池の電池容量が劣化する問題がある。反応中間体の溶出を抜本的に防ぐために、有機電解液の代わりに固体電解質を利用したリチウム硫黄二次電池が全固体リチウム硫黄二次電池である。

関連情報

お問い合わせ

大阪府立大学大学院 工学研究科

准教授 作田 敦(さくだ あつし)

Tel 072-254-9333 Eメール saku[at]chem.osakafu-u.ac.jp [at]の部分を@と差し替えてください。