大阪府立大学

ナノスケールで物質の濃縮効果を発見―ナノ流体デバイスによる超微小気液界面の作製と効果―

更新日:2021年10月14日

ナノ流体デバイス

作製したナノ流体デバイス

本学 工学研究科 化学工学分野の許 岩 准教授、川岸 啓人 さん(博士後期課程 3年)および量子放射線工学分野 川又 修一 教授の共同研究グループは、独自のナノ流体デバイス工学技術(解説1)を駆使して、髪の毛の数百分の1の太さであるナノ流路に、極めて高精度、均一かつ安定にナノスケールで気体と液体が接する界面(超微小気液界面(解説2))を作製することに成功しました。

この超微小気液界面はナノ流路内に並べることができ、また任意な位置に移動することもできます。さらに、この超微小気液界面ができる際に、物質が濃縮される現象を新たに発見しました。この現象はナノ空間の特別な物理化学に起因すると考えられます。

気液界面は、濃縮、反応、分離、冷却、脱塩、ガス吸収、エネルギー輸送などの化学、物理、バイオのプロセスを行う場として、幅広い分野で利用されています。近年では、様々な物質や生体試料を極微量かつ高効率で単離、操作、分析、合成するために、気液界面をナノメートルスケールまで微小化することが求められています。しかし、その界面をナノスケールで精密に制御して作製することは難しく、挑戦的な課題となっていました。

本研究では、ナノ流体デバイスという最先端のデバイスを用いてこの課題を解決し、気液界面をこれまでにない超微小サイズ(数百ナノメートルスケール)かつ超高精度(界面位置は誤差数十ナノメートル以下)で作製できるようにしました。今後、この技術は化学、物理、バイオ、創薬などの分離分析および合成において画期的な革新をもたらすと予測されます。例えば、極微量の生体試料から未知のウイルスやエクソソーム(解説3)、様々な疾患のバイオマーカー(解説4)などの生体分子を簡便かつ高精度に分離分析できる医療機器や診療技術のための新たな基盤技術として寄与することが期待できます。

本研究成果は、2021年10月14日(木)16時(日本時間)に、米国科学雑誌「Nano Letters」のオンライン速報版に公開されました。

論文タイトル
「Fabrication of nanoscale gas-liquid interfaces in hydrophilic/hydrophobic nanopatterned nanofluidic channels」
(親水/疎水ナノパターン化されたナノ流路によるナノスケール気液界面の作製)

本研究のポイント

  • 髪の毛の数百分の1の太さの流路を持つナノ流体デバイスで、ナノスケールの気体と液体が接する界面(超微小気液界面)を作製することに成功した。
  • ナノスケールの超微小気液界面で物質が濃縮される現象を見いだした。
  • 今後、極微量の物質やウイルスなどの生体試料を濃縮するなど、化学工学、材料合成、生命科学、創薬、エネルギー、環境などの幅広い分野における新たな分離分析および合成技術として期待できる。

研究者からのコメント

許先生の写真

工学研究科 化学工学分野 准教授 許 岩(しゅう いぇん)

“Small devices, big impacts”

気液界面の微小化は、化学、生物学、材料学、医学、薬学、エネルギー学、環境学といったあらゆる分野で既存の手法の限界を超える手段として注目されています。

今回の成果は、気液界面の微小化範囲をナノスケールにまで拡張し、ナノスケールプロセスの可能性を切り拓きました。

特にナノスケールでは、これまでの微小化の単なる延長ではなく、ナノ空間にしか存在しない特別な物理化学効果が起こることで全く新しい現象が発見されたり、たった1つの分子を操作することが可能になったりするため、既存スケールの化学、バイオプロセスとは一線を画す新たな領域となることが期待されています。

 

SDGs達成への貢献

SDGsアイコン3、7、9

大阪府立大学は研究・教育活動を通じてSDGs17(持続可能な開発目標)の達成に貢献をしています。

本研究はSDGs17のうち、「3:すべての人に健康と福祉を」「7:エネルギーをみんなにそしてクリーンに」「9:産業と技術革新の基盤をつくろう」等に貢献しています。

研究助成資金等

本研究は、科学研究補助金・挑戦的萌芽研究 (26630403) 、基盤B(18H01848)、基盤A (21H04640)、学術変革領域研究A (21H05231)など8件、JST戦略的創造研究推進事業 さきがけ「生体における微粒子の機能と制御」研究領域 研究課題「aifAによるエクソソームの1ステップ単離配列と1粒子統合解析」 (JPMJPR18H5)、および大阪府立大学SiMS プログラム(解説5)からの支援を受けて行われました。

用語解説

解説1 ナノ流体デバイス

ナノメートルサイズの流路(ナノ流路)が彫り込まれた数センチ四方のガラス板のことで、極微小流体実験環境として近年多くの注目を集めています。ナノ流体デバイスは、化学、バイオ技術に従来のセンチメートル、マイクロメートル(マイクロ流体デバイスやマイクロリアクターなどが代表例)からナノメートルへのオーダーシフト革命をもたらし、化学、バイオ諸分野で新しい科学と工学を開拓しつつあります。

解説2 気液界面

気体と液体との境界を指します。例えば、水面や泡といったもので、自然界、産業界、人体も含めた生体内と、あらゆる場所に存在しています。気液界面では、物質や熱の移動、化学反応、光や波の変化といった、様々な現象が起こることが知られており、これらの現象を上手く利用して既に多くの応用がされています。

解説3 エクソソーム

細胞から放出される、大きさが100ナノメートル前後の細胞外小胞のこと。その表面および内部に様々なタンパク質や、mRNA、miRNAを含み、細胞間のコミュニケーションやがんの転移にも重要な役割を果たすことが近年明らかになってきました。このため、エクソソームは各種疾患の非侵襲性の診断バイオマーカーや治療ツールにもなりうることが期待されます。

解説4 バイオマーカー

体内の正常な生理現象プロセスや病的プロセス、あるいは治療の程度を客観的に測定、評価するための指標のことです。バイオマーカーには、血糖値やコレステロール値をはじめとして、タンパク質やRNAなど体液中に含まれる物質の情報だけでなく、心電図や血圧、X線画像なども含まれます。医薬品開発では、患者の様子ではなく、バイオマーカーを用いることで、客観的、迅速、簡便、高精度に治療の効果を測定することができます。また、バイオマーカーは個人ごとの頻繁な測定を可能にし、個人差に合わせて治療を細かく変えられるような個別化医療、病気になる予兆から対処を行う予防医療など、次世代医療の重要な要素として注目が集まっています。

解説5  SiMS プログラム

(システム発想型物質科学リーダー養成学位プログラム)
産業界でイノベーションを起こせる人材、物質科学とシステムとを融合した「システム的発想」を持つ「ことづくり」ができる人材を養成することを目的としたプログラムです。府立大学と市立大学が共同で、先端研究と自負する物質科学を中心に据えてこのプログラムを申請し、文科省に認可されました。

関連情報

お問い合わせ

研究内容について

大阪府立大学大学院 工学研究科

准教授 許 岩(しゅう いぇん)

Tel 072-254-7813 Eメール xu[at]chemeng.osakafu-u.ac.jp [at]の部分を@と差し替えてください。

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保田 睦子(やすだ むつこ)

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Tel 03-5214-8404 Eメール jstkoho[at]jst.go.jp [at]の部分を@と差し替えてください。