大阪府立大学

超伝導の仕組み解明へ大きな一歩 層状ニッケル酸化物超伝導体の電子構造を解明!―新たな高温超伝導体の探索のヒントに―

更新日:2021年10月14日

超伝導の仕組み解明へ大きな一歩 層状ニッケル酸化物超伝導体の電子構造を解明!―新たな高温超伝導体の探索のヒントに―

図1 ニッケル原子(Ni)の電子構造

本学工学研究科 電子物理工学分野の播木 敦助教、博士前期課程1年の東 啓介さんとウィーン工科大学 Jan Kuneš教授らの研究グループは、2019年に超伝導(解説1)が発見された層状ニッケル酸化物(転移温度約15K、摂氏約-258度)の電子構造を明らかにするために、超伝導発見以降に世界中から報告・蓄積された実験データを、独自に開発した理論に基づく計算プログラムを用いてスーパーコンピューターで高精度解析を行いました。

その結果、このニッケル酸化物は、超伝導が室温により近い温度で発生する高温超伝導体(解説2)の銅酸化物(転移温度約138K、摂氏約-135度)と非常によく似た電子構造を持っていることを突き止めました。また、今回の解析から、超伝導が発生している状態でのニッケル酸化物内の電子軌道が予測できるようになりました。

これらの結果は、リニアモーターカーや送電ケーブル、MRIなどへの応用の可能性が秘められた、ニッケルを用いた新たな高温超伝導体を設計するための指針を与えるものと期待されます。さらに、ニッケルはもちろん、銅や鉄など、長年の謎である遷移金属化合物の超伝導発生の仕組みを探求・解明するための新たな視点となると期待されます。

なお、本研究の成果は、米国物理学会が刊行する学術雑誌「Physical Review X」にて、10月14日(木)午前0時30分(日本時間)にオンラインで掲載されました。

論文タイトル「Core-level x-ray spectroscopy of infinite-layer nickelate: LDA+DMFT study」

本研究のポイント

  • 層状ニッケル酸化物が高温超伝導体の銅酸化物と非常によく似た電子構造を持っていることを、独自に開発した計算プログラムを用いた理論解析によって解明した。
  • 現在、超伝導が報告されている層状ニッケル酸化物の転移温度は約15K(摂氏約-258度)と低いが、今回電子構造が明らかとなったことで、ニッケルを用いた新たな高温超伝導体の設計・探索が進むと期待される。
  • 今回の解析から、超伝導が発生している状態でのニッケル酸化物内の電子軌道が予測できるようになった。これは、ニッケルはもちろん、未だ明らかになっていない「遷移金属酸化物の超伝導」が発生する仕組みを探究・解明するための新たな視点となると期待される。

研究者からのコメント

播木先生

工学研究科 電子・数物系専攻 電子物理工学分野 助教 播木 敦

白熱した議論が続いているニッケル酸化物の超伝導体ですが、実験事実にしっかり裏付けられた電子構造を決定できました。
超伝導の仕組み解明に向けた、今後の研究の土台となる成果だと思います。

東さんの写真

工学研究科 電子・数物系専攻 電子物理工学分野 博士前期課程 1年 東 啓介 さん

私が初めて関わった研究でこのような研究成果が出たことを大変嬉しく思います。

ニッケル酸化物の超伝導が将来の新しい産業技術に役立つと思います。この研究を通じてご指導頂いた共同研究の皆様に心から感謝いたします。これからも世の中に貢献できるよう精進してまいります。

 

SDGs達成への貢献

SDGsアイコン7、9

大阪府立大学は研究・教育活動を通じてSDGs17(持続可能な開発目標)の達成に貢献をしています。

本研究はSDGs17のうち、「7:エネルギーをみんなに そしてクリーンに」「9:産業と技術革新の基盤をつくろう」に貢献しています。

研究助成資金等

本研究の一部は、日本学術振興会 科学研究費助成事業(科研費)若手研究(21K13884)、European Research Council(No.646807-EXMAG)からの支援を受けて行われました。

用語解説

解説1 超伝導

特定の金属や化合物を冷やすと、電気抵抗が急激にゼロになる現象です。熱エネルギーの損失なく流れる永久電流は、エネルギーロスのない送電ケーブルなど、世界を一変するクリーン技術をもたらすと期待されます。基礎物理の観点からすれば、我々の目では見えない微小な世界の量子力学効果が、日常生活のスケールで現れる驚異的な例といえます。1911年に水銀(転移温度-268度)で初めて発見され、発見者のカマリン・オネスは1913年にノーベル賞を受賞しました。この(低温)超伝導は、1957年にバーディーン、クーパー、シュリーファーが提唱したBCS理論で理解されました(3名は1972年にノーベル賞を受賞)。

解説2 高温超伝導体

1986年に銅酸化物(La-Ba-Cu-O系)で高い転移点をもつ超伝導(=高温超伝導)が発見され(発見者ミュラーとベドノルツは1987年にノーベル賞受賞)、その後次々と類似の層状銅酸化物(CuO₂面構造を有する)で高温超伝導が報告されました。この高温超伝導の発現の仕組みは上述のBCS理論の枠内では説明できず、物性物理学の重要未解明問題として現在も盛んに研究されています。ニッケル酸化物の転移温度は-260度程度と、銅酸化物の約-135度(例えば、HgBaCaCuO)と比べると低いですが、銅酸化物超伝導体のように結晶構造を最適化していくことで、転移温度の高い超伝導体が得られると期待されます。

お問い合わせ

大阪府立大学大学院 工学研究科

助教 播木 敦(はりき あつし)

Tel 072-254-6249 Eメール hariki[at]pe.osakafu-u.ac.jp[at]の部分を@と変えてください。