大阪府立大学

巨大負熱膨張のメカニズムを解明―さらなる新材料の設計に道を拓く―

更新日:2021年9月29日

巨大負熱膨張のメカニズムを解明

図:Ca₂RuO₄の低温(左)と高温(右)の結晶構造。低温ではdxy軌道のみが2つの電子を持つため、酸素8面体が横に伸びている。8面体が傾斜することでもc軸(縦)方向に収縮している。昇温すると、これらの歪みが解消することで、c軸(縦)方向に膨張、b軸(横)方向に収縮する。

本学教員を含む、東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所のLei Hu(レイ フ)研究員、東 正樹教授、名古屋大学の竹中 康司教授、神奈川県立産業技術総合研究所の西久保 匠、酒井 雄樹の両常勤研究員らの研究グループは、層状ルテニウム酸化物において巨大負熱膨張(解説1)の起源となっている結晶構造変化を解明した。

負熱膨張材料は、光通信や半導体製造装置などの構造材で、精密な位置決めをさまたげる熱膨張を補償(キャンセル)できる。還元処理した層状ルテニウム酸化物Ca2RuO4の焼結体は大きな負熱膨張を示すが、そのメカニズムはこれまで不明だった。

本研究ではCa2RuO4の結晶構造変化を、電子線解析や放射光X線解析、第一原理計算(解説2)などの方法で調べた。その結果、昇温に伴う結晶構造の歪みの解消や、結晶粒間の空隙の減少が巨大な負熱膨張につながっていることが明らかになった。

本研究で巨大な負熱膨張のメカニズムが解明されたことで、今後は、高価なルテニウムの代わりに安価な金属元素を用いた、同様の特性を持つ新しい負熱膨張材料の設計が期待できる。

研究成果は9月24日に米国化学会誌「Chemistry of Materials」のオンライン版に掲載された。

研究グループには、大阪府立大学の森 茂生教授、東京工業大学のYue-wen Fang(ユゥエン ファン)研究員、Zhao Pan(ザオ パン)研究員、Hena Das(ヘナ ダス)特任准教授、福田 真幸大学院生、中国北京航空航天大学のYingcai Zhu(インサイ シュ)研究員、高輝度光科学研究センターの河口 彰吾主幹研究員、量子科学技術研究開発機構の町田 晃彦上席研究員、綿貫徹放射光科学研究センター長が参画した。

論文タイトル「Origin and absence of giant negative thermal expansion in reduced and oxidized Ca2RuO4」

本研究のポイント

  • ルテニウム酸化物の昇温に伴う結晶構造変化から、巨大負熱膨張のメカニズムを解明
  • 特定の電子軌道の占有による結晶構造の異方的熱変形が、巨大な負熱膨張を引き起こすことを発見
  • 光通信や半導体分野で利用される熱膨張抑制材としての活用を期待

SDGs達成への貢献

SDGsアイコン7、9

大阪府立大学は研究・教育活動を通じてSDGs17(持続可能な開発目標)の達成に貢献をしています。

本研究はSDGs17のうち、「7:エネルギーをみんなに そしてクリーンに」「9:産業と技術革新の基盤をつくろう」に貢献しています。

研究助成資金等

本研究の一部は、神奈川県立産業技術総合研究所・有望シーズ展開事業「次世代機能性酸化物材料プロジェクト」(リーダー 東 正樹 東京工業大学 教授)、日本学術振興会・科学研究費補助金・基盤研究S「革新的負熱膨張材料を用いた熱膨張制御」(代表 東 正樹 東京工業大学 教授)、特別研究員奨励費「層状ルテニウム酸化物の金属絶縁体転移と負熱膨張の機構解明」(代表 東 正樹 東京工業大学 教授)、特別推進研究「光と物質の―体的量子動力学が生み出す新しい光誘起協同現象物質開拓への挑戦」(代表 腰原 伸也 東京工業大学 教授)、東京工業大学 科学技術創成研究院World Research Hub Initiative (WRHI)プログラムの助成を受けて行った。

用語解説

解説1 負熱膨張

通常の物質は温めると体積や長さが増大する、正の熱膨張を示す。しかし、一部の物質は温めることで可逆的に収縮する。こうした性質を負熱膨張と呼び、ゼロ熱膨張材料を開発する上で重要である。

解説2 第一原理計算

経験によらず、量子力学の基本原理に立脚して、物質の結晶構造や電子状態を予測する理論計算。

お問い合わせ

大阪府立大学 大学院 工学研究科

教授 森 茂生(もり しげお)

Tel 072-254-9318 Eメール mori[at]mtr.osakafu-u.ac.jp[at]の部分を@と変えてください。