大阪府立大学

がん診断技術に革命を起こす!高分子ゲルを用いたがん組織の迅速透明化と3次元蛍光イメージング―高精度ながん病理診断への応用に期待―

更新日:2021年8月3日

大阪府立大学大学院 工学研究科 児島 千恵准教授、松本 章一教授および生命環境科学研究科 杉浦 喜久弥教授らの研究グループは、住友化学株式会社との共同研究によって、生体膜のリン脂質を模倣した双性イオン型の高分子(解説1)ゲルをあらたに開発し、それを用いることにより、がん組織の透明化プロセスのスピードアップと生体組織の3次元蛍光イメージングに成功しました。この技術をがん診断に展開すれば、微小がんの見落としの防止や、がんの個別医療を実現するための精度の高いがん病理診断が可能になると期待されます。

説明の図

研究概要

現在の病理診断では、生体組織から適当な部位を切り出した切片を用いてプレパラートを作製し、2次元的に顕微鏡観察することによって病理診断がなされています。しかし、生体組織を透明化できれば、組織丸ごと3次元的に観察することが可能になり、生検サンプルの一部ではなく、全体を多重染色し3次元的に診断することが可能です。近年、組織透明化技術が盛んに研究されていますが、がん組織は透明化が難しいとされています。研究グループでは、正と負のイオン性部位をあわせもつ双性イオン構造をもつ高分子ゲルが透明化プロセスの促進効果を示し、より速く、より透明ながん組織を得ることに成功しました。また、生体膜のリン脂質を模倣した双性イオン型の高分子ゲルを用いて透明化した脳組織およびがん組織の3次元蛍光イメージングに成功しました。この組織透明化手法および3次元蛍光イメージング技術をがん組織の病理診断に利用すれば、生検サンプルを丸ごと診断することが可能となり、微小がんの見落としを防止することができます。さらに、がん組織内のがん細胞の多様性や各種免疫細胞の分布なども多重染色により可視化することができ、個々の患者に適合した個別医療を実現するためのがん診断が可能になると期待されます。

本研究成果は、Wiley社が刊行する高分子バイオ材料の専門誌である「Macromolecular Bioscience」に2021年6月21日付でオンライン版として先行公開されました。また同誌の表紙に選出されました。

論文タイトル「Application of Zwitterionic Polymer Hydrogels to Optical Tissue Clearing for 3D Fluorescence Imaging」

SDGs達成への貢献

SDGs3と9のアイコン大阪府立大学は研究・教育活動を通じてSDGs17(持続可能な開発目標)の達成に貢献をしています。

本研究はSDGs17のうち、「3:すべての人に健康と福祉を」「9:産業と技術革新の基盤をつくろう」に貢献しています。

研究助成資金等

本研究の一部は、国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)橋渡し研究戦略的推進プログラム/異分野融合型研究開発推進支援事業(橋渡し研究支援拠点、国立大学法人 大阪大学)からの支援を受けて行われました。

用語解説

解説1 双性イオン型の高分子

側鎖に正電荷をもつカチオンと負電荷をもつアニオンをあわせもつ高分子。第四級アンモニウム基とカルボン酸塩、スルホン酸塩、リン酸塩をあわせもつカルボキシベタイン型、スルホベタイン型、ホスホベタイン型などがある。

関連情報

これまでの研究成果を記載した論文1

これまでの研究成果を記載した論文2

お問い合わせ

大阪府立大学 大学院 工学研究科

准教授 児島 千恵(こじま ちえ)

Tel 072-254-8190 Eメール kojima[at]chem.osakafu-u.ac.jp[at]の部分を@と変えてください。