迅速かつ安価に構造を決定する手法を実現!偏光赤外光×アクセサリで結晶中の分子や化学結合の向きを解明!―有機デバイスの開発加速や夢の高集積デバイスの実現へ期待―
更新日:2021年6月18日
大阪府立大学大学院 工学研究科のBettina Baumgartner JSPS招へい研究者、岡田 健司准教授、高橋 雅英教授らの研究グループは、フーリエ変換赤外分光装置(FT-IR)に3Dプリンターで自作した測定ホルダーを装着し、偏光赤外光(解説1)を照射することで、結晶性の有機-無機ハイブリッド薄膜(解説2)中の分子や化学結合の向きや量を高感度で検出する手法を確立しました。
これにより、10ナノメートル以下の超薄膜のような極めて微量の試料においても、汎用的な装置を利用して構造モデルを迅速に特定することが可能となりました。この手法を用いることで、分子の向きや配向が性能に大きく影響する有機ELや変形可能なフレキシブルデバイスなどの有機電子デバイスや、光触媒などの表面反応が重要な触媒材料の機能向上や製造プロセスの最適化に貢献するとともに、研究現場においても簡便に生成物の構造を解析できる新しい基盤技術として期待されます。また、夢の超高集積デバイス(解説3)の実現へ向けた大きな助力となることも期待されます。
なお、本研究成果は、日本時間2021年6月18日(金)17時に英国の英国王立化学会が刊行する学術雑誌「Chemical Science」誌のオンライン速報版で公開されました。
論文タイトル「Infrared Crystallography for Framework and Linker Orientation in Metal-Organic Framework Films」
本研究のポイント
- 汎用装置を用いて有機結晶や有機-無機ハイブリッド結晶の構造決定する手法を開発
- 測定感度が高いため数分子層からなる超薄膜の解析が可能
- 3Dプリンターを用いて光学系を構築できるため、様々な装置や反応系との融合による「その場測定」に威力を発揮
SDGs達成への貢献
大阪府立大学は研究・教育活動を通じてSDGs17(持続可能な開発目標)の達成に貢献をしています。
本研究はSDGs17のうち、「7:エネルギーをみんなに そしてクリーンに」と「9:産業と技術革新の基盤をつくろう」に貢献しています。
研究助成資金等
本研究の一部は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)(JPMJPR19I3)、科学研究費助成事業(科研費)若手研究(19K15292)、基盤研究A(20H00401)、日本学術振興会外国人研究者招へい事業 (PE20025)、泉科学技術振興財団 研究助成、北海道大学触媒科学研究所 共同利用・共同研究事業からの支援を受けて行われました。
用語解説
解説1 偏光赤外光
光には波の性質があり交流電場・磁場を生じる。太陽光や照明器具から発する光は交流電場成分の振動の向きがランダムである。電場振動の振動方向がそろった光を「偏光」と言い、赤外光の波長の偏光を偏光赤外光と称する。
解説2 有機-無機ハイブリッド薄膜
有機分子と無機物質から構成される薄膜を有機-無機ハイブリッド薄膜という。有機分子の高い機能性と無機物質の信頼性を共有する高機能性材料として注目されている。
解説3 超高集積デバイス
情報処理デバイスの処理能力は集積度に比例するとされており、既存デバイスの集積度を大きく凌駕するデバイスを超高集積デバイスと呼称する。未来のハイテクデバイスの心臓部として盛んに研究が進められている。
関連情報
- 大面積でナノサイズの穴が全て同じ方向を向いた多孔質MOF薄膜の合成に、世界で初めて成功(2016年12月6日プレスリリース)
- 大阪府立大学大学院 工学研究科 物質・化学系専攻 マテリアル工学分野 ナノテク基盤材料研究グループ Webサイト
お問い合わせ
大阪府立大学 大学院 工学研究科
教授 高橋 雅英(たかはし まさひで)
Tel 072-254-9309 Eメール masa[at]mtr.osakafu-u.ac.jp [at]の部分を@と変えてください。