光濃縮によるがんの超早期診断法の開発 ―極微量の生体マーカーを検出する革新的技術の確立へ―
更新日:2021年4月20日
大阪府立大学(学長:辰巳砂 昌弘)研究推進機構LAC-SYS研究所(所長:飯田 琢也、副所長:床波 志保、所長補佐:中瀬 生彦)と愛知県がんセンター(総長:高橋 隆)分子診断トランスレーショナルリサーチ分野(分野長:田口 歩)との共同研究に関する研究課題が、国立研究開発法人 科学技術振興機構(以降、JST)による未来社会創造事業「本格研究課題」に決定しました。
- プレスリリース全文(431KB)
JSTについて
JSTは、科学技術基本計画の中核的な役割を担う機関であり、国から示される目標に基づき、科学技術に関する基礎研究、基盤的研究開発、新技術の起業化支援、科学技術情報の流通、また近年では国際共同研究の推進や次世代人材の育成など、科学技術の振興と社会的課題の解決のために、様々な事業を総合的に実施しています。
「未来社会創造事業」について
本事業では、社会・産業ニーズを踏まえ、経済・社会的にインパクトのあるターゲットをめざす技術的にチャレンジングな目標を設定し、POC(概念実証:実用化が可能かどうか見極められる段階)をめざした研究開発を実施します。
採択内容
事業名 | 未来社会創造事業(探索加速型)本格研究 |
---|---|
研究開発課題名 | 低侵襲ハイスループット光濃縮システムの開発 |
研究概要
日本人の2人に1人が生涯に罹患し、死亡率の1位を占めるがんは、高齢化が進む我が国の重要な社会課題です。近年、がん医療の分野では新たな治療薬の開発だけでなく、患者一人一人の病態を正確に把握して治療などに反映させる精密医療・個別化医療に関する取り組みが盛んであり、微量のがん関連物質(バイオマーカー)を検出する優れた臨床検査技術の研究開発が切望されています。
これまでの探索期間において、大阪府立大学LAC-SYS研究所の飯田、床波、中瀬らのグループでは、光が物質に及ぼす圧力(光圧)と光加熱により生じる対流(光誘起対流)の相乗効果を利用して、タンパク質などの生体ナノ物質を高濃縮して反応加速させる「光濃縮」の新原理解明に取組んできました。さらに、実用化をめざした取り組みとして、愛知県がんセンターの田口グループとの議論の中で、この原理を駆使することでレーザー照射をするだけの簡便な操作で微量バイオマーカーの検出を迅速化・高感度化できる革新的検査法への展開が期待できると着想しました。このアイデアを具現化すべく協働で予備的な検証実験を進めて有望な結果の取得に成功し、この度の本格研究への採択に至りました。
研究者コメント
研究推進機構21世紀科学研究センター LAC-SYS研究所
飯田 琢也 所長(理学系研究科 物理科学専攻 教授)
床波 志保 副所長(工学研究科 物質・化学系専攻 准教授)
中瀬 生彦 所長補佐(理学系研究科 生物科学専攻 教授)
本研究所は、大阪府立大学キープロジェクトの下で2017年5月に設立以来、物理・化学・生命科学の異分野横断の共同研究を推進し、光濃縮により多種多様な生化学反応を遠隔的に加速する次世代の光科学・量子科学の基盤技術である「光誘導加速システム(Light-induced Acceleration System; LAC-SYS)」を世界に先駆けて開発してきました。このたび、私どもの研究課題が厳しい競争の中、JST未来社会創造事業の本格研究にご採択いただけたことに大きな喜びと責任を感じております。本プロジェクトでは、愛知県がんセンター田口先生のグループと力を合わせて目標を達成し、一日でも早く光濃縮による「がんの超早期診断法」のプラットフォームを構築したいと考えています。そして、医療診断のみならず食品検査・環境計測にも展開して、世界中の皆さんが「明るく、楽しく、元気よく」過ごせる未来の実現に全身全霊で貢献する所存です。企業の皆様のご参画もお待ちしておりますので、本研究にご興味をお持ちいただけるようでしたらぜひお声がけください。
愛知県がんセンター 分子診断トランスレーショナルリサーチ分野
田口 歩 分野長
私の研究グループでは、長年にわたり、高感度プロテオーム解析を用いた血液バイオマーカーの同定と、がんの早期診断血液テストの開発に取り組んできました。近年のプロテオーム解析技術の進歩は目覚ましく、血液中に極微量しか存在しないタンパク質の網羅的なプロファイリングが可能になる一方で、有望な極微量の血液バイオマーカーを高感度に検出できるアッセイが存在しないことに、大変もどかしい思いを抱えておりました。飯田先生方から光濃縮システムの紹介を受けた瞬間に、これこそ私が探していたアッセイプラットフォームだと感じ、本プロジェクトに飛び込むことを決意しました。がん治療の最前線を担う愛知県がんセンター病院との緊密な連携を強みとして、JST未来社会創造事業の大きなご支援を追い風に、がんの超早期診断の実現に向かって、ラボメンバー全員が一丸となって突き進んでいきます。
SDGs達成への貢献
大阪府立大学は研究・教育活動を通じてSDGs17(持続可能な開発目標)の達成に貢献をしています。
本研究はSDGs17のうち、「2:飢餓をゼロに」「3:すべての人に健康と福祉を」「6:安全な水とトイレを世界中に」「7:エネルギーをみんなにそしてクリーンに」「9:産業と技術革新の基礎をつくろう」「11:住み続けられるまちづくりを」「13:気候変動に具体的な対策を」「14:海の豊かさを守ろう」「15:陸の豊かさも守ろう」等に貢献しています。
関連情報
- 国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST) Webサイト
- 令和3年度 「未来社会創造事業(探索加速型)における令和3年度新規本格研究課題の決定について」(JST Webページ)
- 大阪府立大学 研究推進機構21世紀科学研究センター LAC-SYS研究所 Webサイト
- 愛知県がんセンター 分子診断トランスレーショナルリサーチ分野(愛知県がんセンター Webページ)
お問い合わせ
研究推進機構21世紀科学研究センター LAC-SYS研究所
所長 飯田 琢也
Tel 072-254-8132 Eメール t-iida[at]p.s.osakafu-u.ac.jp[at]の部分を@と変えてください。