体内時計の「生物リズムが失われた状態」を世界で初めて解明! 最先端農業、健康・医療、バイオ工学の高度化に寄与する 生物リズムの精密な制御を実現する新手法を開発
更新日:2021年2月9日
大阪府立大学(学長:辰巳砂 昌弘)工学研究科 増田 亘作 日本学術振興会特別研究員(博士後期課程3年)と福田 弘和教授、立命館大学 徳田 功教授、名古屋大学 中道 範人准教授らの研究グループは、植物の体内時計(解説1)において、生物リズムが失われた状態(シンギュラリティ、(解説2))での応答が、体内時計の制御において重要な位相応答曲線(解説3)を高効率に求めることに繋がることを、世界で初めて明らかにしました。
本発見により、包括的な位相応答曲線を迅速かつ効率的に求められるようになることから、様々な状況下における体内時計のふるまいや入力刺激に対する脆弱性(応答性)を解析することが可能になり、植物工場などにおける先端農業やバイオ工学などへの展開が期待されます。
研究概要
植物の生物リズム(の周期)は、体内時計によって決定されており、生物リズムは体内時計を制御することで変化します。外部から同じ刺激を受けた場合でも、その刺激を受ける時間帯によって体内時計の時間を進めたり遅らせたりする応答の違いが起こります。この応答特性は、位相応答曲線と呼ばれる応答関数で表され、その関数を求めることが体内時計の挙動解析や制御において重要であることが知られていますが、包括的な位相応答曲線の計測は非常に手間がかかるため、その包括的な計測は困難とされてきました。
そこで、本研究では、植物の生物リズムが失われた状態(シンギュラリティ)に着目し、体内時計内の時計細胞集団の応答から、位相応答曲線を簡単かつ高速(効率的)に計測できることを世界で初めて明らかにしました。これによって、計測に必要なコストが100分の1以下となり、高効率に解析することが可能になりました。また、この技術は、将来、体内時計の精密制御や脆弱性(応答性)の解明を実現するための基礎技術となると期待されます。
なお、本研究成果は、英国のNature Publishing Groupが刊行する学術雑誌「Nature Communications」にて、2021年2月8日(月)19時(日本時間)に公開されました。
論文タイトル「The Singularity response reveals entrainment properties of the plant circadian clock.」
また、本研究は、「Nature Communications」に掲載されている最近の研究をまとめたPlants and agriculture WebページにEditors’ Highlightsとして特集されました。
SDGs達成への貢献
大阪府立大学は研究・教育活動を通じてSDGs17(持続可能な開発目標)の達成に貢献をしています。
本研究はSDGs17の目標 のうち、「2:飢餓をゼロに」、「14:海の豊かさを守ろう」、「15:陸の豊かさも守ろう」に貢献しています。
研究助成資金等
本研究の一部は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究 推進事業 さきがけ 福田弘和 JPMJPR15O4 、CREST(福田弘和 JPMJCR15O1 、科学研究費助成事業(科研費) 基盤研究( A 福田弘和 20H00423)、新学術領域研究(福田弘和 20H05424、 20H05540)、日本学術振興会 特別研究員奨励費 増田亘作 18J20079
からの支援を受けて行われました。
用語解説
解説1 体内時計
1日の時間を計る生理機構。時計遺伝子の発現によって駆動する。植物の場合、体内時計は各細胞に備わっており、それらが同調して個体全体のリズムを形成している。概日時計、生物時計とも呼ばれる。
解説2 シンギュラリティ
個体レベルの日内リズム(概日リズム)が消失した状態。時計細胞集団の位相がバラバラになることによって生じる。1970年代頃より呼称されている(Winfree, Nature 1975)。
解説3 位相応答曲線
刺激に対する体内時計の時間変化(位相変化)を、刺激の入力時間(入力位相)ごとに表示したもの。
関連情報
大阪府立大学 大学院 工学研究科 教授 福田 弘和お問い合わせ