持続的な作物生産に向けて 植物が必要とする栄養素を輸送の過程で感知する トランスセプターを世界で初めて発見!
更新日:2020年12月16日
大阪府立大学(学長:辰巳砂 昌弘)大学院 生命環境科学研究科 高野 順平教授、吉成 晃研究員(現 名古屋大学)、博士後期課程1年 細川 卓也さんらの研究グループは、植物の無機栄養素の1つであるホウ素(ホウ酸)を輸送する輸送体(トランスポーター)(解説1) の一つが、輸送の過程で栄養素の量を感知し、輸送体自体の蓄積量を制御するトランスセプター (トランスポーター兼レセプター)であることを明らかにしました。植物における輸送が感知を伴うタイプのトランスセプターは世界で初めての発見です。
本研究成果は、植物の持つシンプルで巧みな栄養素獲得の調節機構を発見したもので、不良土壌における作物生産や肥料投入量の削減につながると期待されます。
研究概要
植物は根を使って土壌から無機栄養素(ミネラル)を吸収し、それらを各器官へ輸送して利用します。無機栄養素の1つであるホウ素(ホウ酸)は、細胞壁の構造と機能に重要な栄養素ですが、摂り過ぎると毒になります。ホウ素は雨の多い地域では土壌から流亡しやすく、乾燥地では土壌に蓄積しやすい性質を持っています。ホウ素の欠乏や過剰は作物の収穫量や品質に影響を与えるため、それらを回避する仕組みを知ることは非常に重要です。
今回、私たちは、モデル植物であるシロイヌナズナ(解説2)を用いて実験を行い、ホウ素(ホウ酸)の輸送体BOR1がホウ酸輸送の過程で植物内のホウ酸の量を感知しながら、自身の分解を調節する、輸送体(トランスポーター)と受容体(レセプター)の機能を併せ持つ「トランスセプター」の一種であるということを明らかにしました。本研究成果は、植物の持つシンプルで巧みな栄養素獲得の調節機構を発見したもので、不良土壌での作物生産や肥料投入量の削減につながると期待されます。
本研究成果は2020年12月3日に、国際誌「The Plant Cell」のオンライン速報版に掲載されました。
論文タイトル「Transport-coupled ubiquitination of the borate transporter BOR1 for its boron-dependent degradation」
SDGs達成への貢献
大阪府立大学は研究・教育活動を通じてSDGs17(持続可能な開発目標)の達成に貢献をしています。
本研究はSDGs17のうち、「2:飢餓をゼロに」「15:陸の豊かさも守ろう」等に貢献しています。
用語解説
解説1 輸送体(トランスポーター)
生体膜に埋め込まれる一群のタンパク質で、物質の生体膜透過を促進する働きを持つ。タンパク質の構造からチャネルやトランスポーターなどに分類される。トランスポーターは外向き構造と内向き構造を繰り返すことで物質を輸送する。
解説2 シロイヌナズナ (Arabidopsis thaliana)
アブラナ科の植物でゲノムサイズが小さく、遺伝子組み換えが容易である等の性質を持つことから、研究によく使われる。植物で最初に全ゲノムが解読された生物である。
関連情報
大阪府立大学 大学院 生命環境科学研究科 教授 高野 順平お問い合わせ