大阪府立大学

全固体電池実用化の鍵となる革新的な正極材料を開発―低融性のリチウム塩を用いた非晶質化によって酸素の酸化還元を伴う大容量充放電を実証―

更新日:2020年6月22日

大阪府立大学大学院 工学研究科 物質・化学系専攻の作田 敦 准教授、長尾 賢治 博士(当時 博士後期課程学生)、林 晃敏教授、辰巳砂 昌弘学長らの研究グループは、低融性のリチウム塩を添加して酸化物系正極活物質(解説1)を非晶質化(解説2)することで、全固体電池(解説3)の高エネルギー密度化に有用な正極材料を開発し、世界で初めてバルク型(粉末成形型)の全固体電池において酸素の酸化還元を利用した大容量充放電を実証しました。これは、全固体電池のエネルギー密度(容量)の向上において革新的な材料開発につながるものであり、次世代全固体電池の実用化に向けた研究開発を大きく加速させるものと期待されます。

なお、本研究は米国科学振興協会(AAAS)が刊行する学術雑誌「Science Advances」に6月20日午前4時(日本時間)にオンライン掲載されます。

論文タイトル「A reversible oxygen redox reaction in bulk-type all-solid-state batteries」

研究成果のポイント

従来と開発したバルク型全固体電池の図

図1 従来のバルク型全固体電池(左)と本研究で開発した高容量正極材料を用いたバルク型全固体電池(右)

  • 大容量のモデル正極活物質であるルテニウム酸リチウムに低融性リチウム塩である硫酸リチウムを添加し非晶質化することで、全固体電池の高エネルギー密度化に有用な正極材料を開発。
  • バルク型(粉末成形型)の全固体電池において初めて酸素の酸化還元を利用した大容量充放電に成功。
  • 従来の全固体電池は固体電解質(解説4)を大量に混合する必要があり、エネルギー密度が低下する要因になっていたが、本研究では固体電解質がない状態で大容量充放電が可能であることを証明し、次世代の電池用の正極材料にも適用可能と考えられる。

研究助成資金等

本研究は、主として科研費補助金 基盤研究S 課題番号18H05255 「全固体イオニクスデバイスにおける電極複合体ダイナミクスの研究基盤確立」の支援を受けて行われました。

用語解説

解説1 正極活物質

電池材料の中で、正極の主要物質。正極側でリチウムを出し入れすることによってエネルギーを貯めたり、取り出したりすることができる物質。充電によってリチウムを放出し、放電時にリチウムを受け取る。

解説2 非晶質化

固体は結晶と非晶質(ガラス)に分類できる。結晶は原子が規則的に配列しているが、非晶質では不規則に配列している。結晶性の物質を非晶質にする操作のことを非晶質化という。構造に多様性が生じるためこれまでにない機能の発現が期待できる。結晶に比べて隙間が多くなることでイオンが通りやすくなるといった特徴も有する。

解説3 全固体電池

正極材料、負極材料、電解質など、全ての部材が固体でできている電池。乾電池やリチウムイオン電池などでは、電解質は電解液が使用されている。リチウムイオン電池は有機溶媒にリチウム塩を溶かした有機系の電解液が使用されており、過充電や短絡などによって、電池内部温度上昇等が生じた際に発火・発煙の危険性があり、多重の安全機構をもって利用されている。全固体電池においては難燃性の固体電解質を利用するため安全性の根本的な改善が期待できる。一方で、電極(固体)と電解質(固体)の接合の課題がある。従来のリチウムイオン電池では、電極(固体)と電解液(液体)の接触は容易であるため、固体-固体の良好な接触は全固体電池特有の課題である。

解説4 固体電解質

固体中を特定のイオンが高速に伝導する材料を固体電解質という。ここではリチウムイオンの伝導体を指す。全固体電池のキーマテリアルである。従来はイオンの伝導性が課題とされてきたが、最近では、市販のリチウムイオン電池に用いられる電解液と同等のイオン伝導性を有する固体電解質も開発されてきている。

お問い合わせ

大阪府立大学 大学院工学研究科 物質・化学系専攻

准教授 作田 敦

Tel 072-254-9333 Eメール saku[at]chem.osakafu-u.ac.jp[at]の部分を@と変えてください。