大阪府立大学

光で「生きたまま」微生物を高密度濃縮できるハニカム基板を開発―有用微生物の濃縮によるバイオマス利用技術の革新に期待―

更新日:2020年3月2日

大阪府立大学 LAC-SYS研究所(副所長 床波 志保、所長 飯田 琢也)のチームは科学技術振興機構(以降、JST)の未来社会創造事業において、レーザーを照射しているにもかかわらず生体サンプルを低ダメージ(生存率80~90%)かつ培養フリーで高密度に濃縮できる「ハニカム型光濃縮基板」の開発に成功しました。

イメージ図

ハチの巣を模倣したマイクロ細孔基板に数十秒レーザー照射するだけで「大面積」「高密度」「高生存率」で有用細菌を捕捉

細菌を生存状態で基板上に迅速に高密度集積化する技術は、目的とする細菌を培養で増やすことが困難な場合に微量の代謝物の評価や、有用細菌の代謝機構を用いた微生物テクノロジーの発展において切望されています。近年、有用細菌の代謝機構を利用した応用例は有機物の分解による汚水処理やバイオエタノールの生産、電気的エネルギーの取得などバイオマス(解説1)関連の極めて幅広い領域に渡っています。本研究では、自然界で最も稠密な六方最密構造を示す「ハチの巣」から着想を得て、ミクロンオーダーの細菌に適合した細孔を有するハニカム高分子膜に光発熱特性を付与した基板を開発し、多数の細菌を「生きたまま」高密度に光濃縮することで基板上の細菌総体としての代謝機能の増大とその高効率利用の実証に世界に先駆けて成功しました。この成果はバイオマス利用技術の革新につながるものです。

なお本研究成果は、2020年2月29日に「Science Advances」誌にオンライン掲載されました。

論文名「Light-induced Assembly of Living Bacteria with Honeycomb Substrate (ハニカム基板による生きた細菌の光誘起集合)」

研究成果のポイント

  • 自己組織化で形成したハニカム状の光熱フィルムにわずか20秒間レーザー(出力80 mW以下)を照射するだけで、発生した対流を使用して80〜90%の高い生存率で細菌の高密度集積(106〜107 cells/cm2)ができることを実証。
  • 水滴を鋳型としてポリマー膜中にハニカム状の細孔を自己組織的に形成し、その表面に金属ナノ薄膜を形成して高効率なハニカム型光濃縮基板を開発。
  • 対象とする細菌の例として電流発生菌を光学的に濃縮・集積でき、レーザー照射の回数を増やすだけで、電流密度を1~2桁増大。

研究助成資金等

本研究は主にJST未来社会創造事業 探索加速型 「共通基盤」領域の課題「低侵襲ハイスループット光濃縮システムの開発(研究開発代表者:飯田 琢也、共同研究者:床波 志保、中瀬 生彦)」(JPMJMI18GA)の下で実施され、日本学術振興会 科研費基盤研究(B)(JP18H03522)、科研費基盤研究(A)(JP17H00856)、新学術領域(提案型)「光圧によるナノ物質操作と秩序の創生」(領域代表:石原 一)(JP16H06507)、大阪府立大学キープロジェクト、その他の支援を受けて完成しました。

用語解説

解説1 バイオマス

広い意味で化石資源以外の再生可能な生物由来の有機性資源のことを指します。生物(バイオ)由来の資源量(マス)を表す概念で、このようなバイオマスは3種類に分類できます。1つ目は廃棄物系バイオマスで、下水での排水や汚泥、廃棄された食品、家庭やオフィスで廃棄された紙、建設現場や製材工場での廃材、家畜排せつ物などが挙げられます。2つ目の資源作物としてはバイオエタノール等のエネルギー源の材料となるトウモロコシやさとうきびなど、3つ目は農作物の精製後に残された藁(稲、麦)や籾殻などの未利用バイオマスを挙げることができます。

お問い合わせ

研究に関するお問い合わせ

大阪府立大学 LAC-SYS研究所

副所長 床波 志保

Tel 072-254-9824 Eメール tokonami[at]chem.osakafu-u.ac.jp [at]の部分を@と差し替えてください。

所長 飯田 琢也

Tel 072-254-8132 Eメール t-iida[at]p.s.osakafu-u.ac.jp [at]の部分を@と差し替えてください。

JST事業に関するお問い合わせ

科学技術振興機構 未来創造研究開発推進部 水田 寿雄

Tel 03-6272-4004 Eメール kaikaku_mirai[at]jst.go.jp [at]の部分を@と差し替えてください。