大阪府立大学

大マゼラン雲における大質量星形成をとらえた―アルマ望遠鏡の見た「2羽の孔雀」分子雲が物語る2億年の宇宙史―

更新日:2019年11月14日

名古屋大学大学院理学研究科の 福井 康雄 特任教授、大阪府立大学大学院理学系研究科の 徳田 一起 客員研究員(兼・国立天文台 特任研究員)らの研究グループは、ジョンズホプキンス大学、バージニア大学、パリサクレー大学などと共同で、大マゼラン雲(解説1)の2つの領域をアルマ望遠鏡で観測し、孔雀のように見える構造を持つ、分子ガスの雲(解説2)を新たに発見しました。その中では、すでに大質量の星が作られています。研究チームはコンピュータシミュレーションや他の観測とも比較することで、この特異な構造がガス雲どうしの衝突によって作られたと結論づけました。

およそ2億年前、大マゼラン雲が隣の小マゼラン雲と近接遭遇したことによって、それぞれの銀河に含まれるガスが大きくかき乱され、その結果としてガス雲同士が現在衝突し、活発な星形成が誘起されたと考えられます。これは、銀河どうしの接近や衝突が内部の星形成に与える影響を示した貴重な観測例であり、大質量の星が一斉に生まれるメカニズムの一端を解き明かす成果といえます。

この研究成果は、2本の論文として2019年11月14日付けの米国天文学専門誌「アストロフィジカルジャーナル」に掲載されます。

論文タイトル「An ALMA view of molecular filaments in the Large Magellanic Cloud I: The formation of high-mass stars and pillars in the N159E-Papillon Nebula triggered by a cloud-cloud collision」

論文タイトル「An ALMA view of molecular filaments in the Large Magellanic Cloud II: An early stage of high-mass star formation embedded at colliding clouds in N159W-South」

ポイント

  • 長年の課題であった巨大星形成の理解が大きく進んだ。
  • 大マゼラン雲の中で、いくつもの細く伸びた高密度なガスが、扇型に広がる姿を観測、その要(かなめ)の位置で巨大星が誕生していた。
  • ガス雲どうしが超音速で衝突した結果と考えられる。
  • ガス雲衝突の理論計算による予想とよく一致する。
  • 2つの扇型の構造は同じ方向を向き、共通の起源によってつくられたことを支持する。
  • 2億年前の大・小マゼラン雲の近接遭遇が、その起源であることを示す新たな証拠である。

研究背景と内容

宇宙に存在する物質のうち、重元素は質量の大きな星の中でおこる核融合反応によって生成されます。しかし、質量の大きな星がどのように誕生するのかについては、長い間の謎でした。大マゼラン雲では、太陽の数百倍の質量を持つ星が、今まさに誕生しつつありますが、距離が遠いために、母体となる分子ガスの物理状態をつぶさに調べることは困難で、これまでできていませんでした。

アルマ望遠鏡は、非常に高い分解能を持つ電波望遠鏡です。アルマ望遠鏡を使って大マゼラン雲の2つの場所を観測してみたところ、どちらにも細いひも状に分布する高密度な分子ガスの雲がいくつも存在し、それらが孔雀の羽のように、放射状に分布していることがわかりました。その中心部には、生まれたばかりの若い大質量星が存在しています。また、ひも状のガス雲は、それぞれ様々な速度で運動していることもわかりました。

なぜ、このような構造ができたのでしょうか?衝突する2つのガス雲の境界面で起きる物理現象を、数値シミュレーションにより調べてみた結果、このような構造が再現されることがわかりました。

2つの場所で見られたひも状のガス雲は、両者の距離がおよそ150光年も離れているにも関わらず、どちらもほぼ同じ方向を向いていました。これは両者に同じ方向からガス雲が落下したすなわち同じ起源を持っていることが示唆されます。

大小のマゼラン雲は、銀河系の周囲を回りながら、およそ2億年前に近接遭遇したと考えられています。その時、お互いが強い重力を及ぼしあい、物質を引き出します。引き出された物質は複雑な軌道を巡り、今まさに、大マゼラン雲に落下しているのです。このような壮大でダイナミックな歴史を経て、巨大な星が生まれたことを、今回の観測結果は物語っているのです。

成果の意義

宇宙において、重元素を作った巨大星がどのように誕生するのか、長い間の謎に対する有力な回答を示した。

用語解説

解説1 大マゼラン雲

大・小マゼラン雲:天の川銀河のすぐ隣にある2つの小さな銀河。複雑な軌道で運動し、両者が近づいたときには、重力による影響を強く及ぼしあっている。

解説2 分子ガスの雲

銀河の構成要素は星だけでなく、星間雲と呼ばれ、星と星の間の空間に漂う希薄なガスも巨大な質量を持っている。主成分は水素原子だが、密度が高くなると分子ガス(分子雲)となり、自らの重力で潰れ、星が誕生する。

研究助成等

本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金、国立天文台ALMA共同科学研究事業およびNASAの支援のもとで行われたものです。

関連リンク

お問い合わせ

大阪府立大学大学院理学系研究科(兼 国立天文台 特任研究員)

客員研究員 徳田 一起(とくだ かずき)

Tel 080-1464-3757 Eメール tokuda[at]p.s.osakafu-u.ac.jp[at]の部分を@と変えてください。