大阪府立大学

代謝活性評価のための微生物プラットフォームを開発―微生物の活動を電流で計測―

更新日:2019年8月28日

大阪府立大学大学院 工学研究科 博士前期課程 齊藤 真希、博士後期課程 Nguyen Dung、石木 健吾、椎木 弘 准教授らの研究グループは、導電性高分子(解説1)を利用して微生物を基板に固定する方法を開発しました。本開発によって、微生物によるバイオフィルム(解説2)形成をリアルタイムで追跡することができました。また、微生物の呼吸活性を電流計測することが可能になり、通性嫌気性細菌(解説3)と好気性細菌(解説4)の好気条件下における呼吸活性がほぼ同レベルであることを初めて実証しました。

本開発は、食中毒菌検査、薬剤感受性試験や抗菌性物質のスクリーニングなど、微生物の活性を利用する様々な分析・計測に利用可能な技術として期待されます。

本開発のポイント(特徴と効果)

イメージ図1. 種々の材料に微生物を生きたまま固定可能
2. 微生物の活性を単一細胞レベルで評価可能
3. バイオフィルムの生成過程を経時観察可能
これらの特徴を利用して、
4. 微生物呼吸の定量化に成功
5. 単一細胞の呼吸量の算出に成功

概要

微生物の中には食中毒や感染症を引き起こし、人命に脅威を与える菌があります。一方、お酒やヨーグルトなどの発酵食品や汚水浄化、有毒物質の分解、有用物質の生成、および微生物燃料電池などの分野で有用な菌も多く存在します。

微生物脅威を抑制し、それらの有用性を高め、人類と微生物がさらに効率的に共存するためには、微生物機能の理解と評価が必要です。

現在、微生物の生存率測定や生死判別は、食中毒菌検査、薬剤感受性試験や抗菌性物質のスクリーニングなど様々な分析・計測に利用されています。それらは、一般的に寒天培地やシート状培地におけるコロニー形成やマイクロプレートウェルでの比色分析によって評価されています。細胞計数、染色またはクロマトグラフィーによる評価は、顕微鏡や分析機器などの特別な装置を必要とするばかりでなく、培養は検出工程を長びかせ、操作や評価には熟練を要します。

一方、電気化学方式は装置の小型化が容易であり、操作も簡単であるため、ポータブル電気化学センサを作製することができます。しかし、ほとんどの微生物は金属や金属酸化物など、電極やチップを構成する無機材料との親和性が低く、微生物の活性を計測することが困難でした。

本研究グループでは、導電性高分子が微生物に親和的であることを実証し、導電性高分子に細胞を固定する方法を開発しました。細胞は高分子マトリクスに高い生存率で固定化され、生体適合性、多孔構造や機械特性などの化学的、物理的特性において微生物に適した環境の構築が可能であることを実証し、細胞活性の直接計測に成功しました。

本成果は米国化学会「Analytical Chemistry」オンライン版で 2019年8月19日に公開されました。なお、「Analytical Chemistry」誌のCover artに選出されました。

論文タイトル「 A Microbial Platform Based on Conducting Polymers for Evaluating Metabolic Activity」

用語解説

解説1 導電性高分子

導電性高分子:電気伝導性を持つ高分子の総称で、ポリアニリンやポリピロール、ポリチオフェンなどが知られている。PEDOTはポリチオフェンの誘導体であり、可溶性や透明性に優れる。

解説2 バイオフィルム

バイオフィルム:細胞外高分子物質の分泌などによって微生物がつくる構造体のことで、菌膜とも呼ぶ。

解説3 通性嫌気性細菌

通性嫌気性細菌:酸素の有無によって代謝を切り替える細菌のことで、酸素存在下では好気呼吸によってエネルギーとなるATPを生成し、酸素がない場合においては発酵によりエネルギーを得る。

解説4 好気性細菌

好気性細菌:酸素に基づく代謝機構を持っており、糖のような基質を酸化してエネルギーを得る際に酸素を利用する。

研究助成等

本研究は、JSPS科学研究費補助金(16H04137)、JSPS特別研究員(19J10509)、公益財団法人発酵研究所の支援により行われました。

お問い合わせ

大阪府立大学大学院 工学研究科

准教授 椎木 弘

Tel 072-254-9875 Eメール shii[at]chem.osakafu-u.ac.jp[at]の部分を@と変えてください。