大阪府立大学

いつでも、どこでも、だれでも簡単に細菌を検出可能「ナノラズベリーを用いた標的細菌1個の高感度検出に成功!―安心・安全で豊かな社会の形成に貢献―」

更新日:2018年10月18日

公立大学法人 大阪府立大学大学院 工学研究科 博士後期課程 2年 Dung Nguyen、石木 健吾、椎木 弘准 教授らの研究グループは、ラズベリー状ナノ構造体の電気化学特性を利用して標的細菌の検出に成功しました。本研究により、標的細菌を細胞1個から検出することが可能になりました。

本開発のポイント

標的細胞の標識化と標識の電流応答による定量の図

図 標的細胞の標識化と標識の電流応答による定量

電気化学的に活性な標識の開発により

  • 細胞1個を電気化学的に検出(高感度検出)
  • 1個から10万個の細胞の定量が可能
  • 共存細胞の応答ナシ(特異検出)
  • 自発結合による迅速検出(1時間以内)
  • 検出手順が簡単
  • 装置の小型化が容易

概要

微生物、特に細菌の検出は、医療、創薬、公衆衛生や食の安心安全の確保、機能性食品の品質管理などにおいてその重要性が増しています。本研究では、特徴的な電気化学特性をもつ標識を作製し、電極に吸着した細菌を標識することで、特異的かつ高感度な細菌検出を達成しました。

本研究で標識として用いたラズベリー状ナノ構造体は、金ナノ粒子(解説1)と導電性ポリアニリン(解説2)からなっており、その構造に特徴的な光学特性と電気化学特性を有しています。このナノラズベリー(解説3)に抗体を導入することで標的細菌を特異的に標識することができます。ナノラズベリーの電気化学特性に着目することで電極に吸着した細胞1個を高感度に検出することが可能になりました。

細菌を含む試料溶液1滴を電極に滴下して乾燥させた後、この電極をナノラズベリー分散液に浸漬します。その後、この電極を用いて電気化学測定を行うと、標的細菌に結合したナノラズベリーに基づく電流応答が得られるもので、迅速(1時間以内)かつ高感度な測定が可能となります。本法では、試料溶液に含まれる他の共存細菌には全く応答が見られず、標的細菌のみを検出することができます。また、電気化学方式は装置の小型化が容易であるため、いつでも、どこで、だれでも簡単に使えるポータブル電気化学センサ(解説4)が作製できます。このような開発によって、医療、創薬、公衆衛生や食の安心安全の確保、機能性食品の安定供給や品質管理など、様々な用途において、個人、事業所レベルでの自主管理が可能になり、安心・安全で豊かな社会の形成に貢献できます。今後、種々の標的に対応可能なナノ構造体や電極の開発により、実用化を目指します。

本論文はSpringer Nature社「Microchimica Acta」オンライン版で 2018 年 9月17日に公開されました。

論文タイトル「Single cell immunodetection of Escherichia coli O157:H7 on an indium-tin-oxide electrode by using an electrochemical label with an organic-inorganic nanostructure」

用語解説

解説1 金ナノ粒子

金コロイドとも呼ばれ、1から100 nm程度の粒径をもつ金の粒子のことで、分散状態では特徴的な光学特性に基づく赤色を呈することから、古くからステンドグラスや切子などの赤として利用され、近年では、インフルエンザや妊娠検査キットの標識として利用されています。

解説2 ポリアニリン

導電性高分子の一つで、白川秀樹博士(筑波大学名誉教授)とともにノーベル化学賞を受賞したA.G.MacDiarmid博士やA.J.Heeger博士らによって見出されました。酸化状態やドーピングレベルに基づいて共役π電子系が高分子鎖に沿って形成され、導電性が発現します。

解説3 ナノラズベリー

金イオン(Au3+)をアニリンで還元すると、金ナノ粒子が生成するとともにアニリンは酸化されポリアニリンとなります。本研究グループが世界で初めて作製に成功したナノ構造体のことで、その形状に因んでナノラズベリーと命名しました(Chem. Commun.、2006、4288-4290)。

解説4 電気化学センサ

電極での物質の化学反応により生じる電流応答を利用する方式のセンサのことです。電気信号は信号変換が容易であるため、測定値を直ちに表示できるなど、デバイスの小型を可能にします。血糖自己測定に使用する携帯型血糖値計のほとんどは電気化学方式を採用しています。

研究助成等

本開発は農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業(25020A)、JSPS科学研究費補助金(25288039、16H04137)の支援により行われました。

お問い合わせ

大阪府立大学大学院 工学研究科

准教授 椎木 弘

Eメール shii[at]chem.osakafu-u.ac.jp[at]の部分を@と変えてください。