現代システム科学域とは
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人類の歴史を振り返ってみましょう。紀元前に各地で文明が誕生し、長い時間をかけて世界中に人が住むようになりました。地球の人口は少しずつ増えていきました。18世紀に産業革命が起き、人類は石炭や石油などの化石燃料を使って、工場でたくさんのものを作ることができるようになりました。また大規模農業を行なって、食料をたくさん作ることもできるようになったのです。その結果、20世紀の100年間に、地球の人口は数倍に膨れあがりました。工場からは汚染物質がどんどん排出され、地球上のあちこちで化石燃料を燃やし続けました。化石燃料には限りがありますから、いずれは枯渇してしまいます。燃やすときに出てくる二酸化炭素が大気中にたまっていき、地球温暖化をまねいていると考えられています。新しい燃料として期待されていた原子力も、あちこちで事故が起きていますし、核廃棄物を安全に処理する方法も見つかっていません。もちろん、日本にいる私たちが、あふれる商品や食料に囲まれて、「いまこの瞬間」だけを楽しみたいのなら、それでもいいのかもしれません。しかしながら、私たちが化石燃料を独占してしまったら、将来の子どもたちのエネルギー源がなくなってしまうことでしょう。私たちがいまのライフスタイルを楽しんだおかげで、将来の子どもたちに大きな被害が及ぶかもしれないのです。「いま楽しければいいのだ。将来の子どもたちのことなどは知らないのだ!」というわけにはいかないのです。いま生きている私たちだけが楽しく生活できるのではなくて、私たちも楽しく生活できるし、将来の子どもたちもずっと同じような楽しい生活ができるような社会、それを「サステイナブルな社会」と呼びます。サステイナブルな社会とは、持続可能な社会という意味です。いまの社会が、大きく崩壊することなく、将来もずっと続いていけることです。サステイナブルという言葉は、「サステイナビリティ」という名詞から来ています。日本語では「持続可能性」と翻訳されます。現代システム科学とは、人類の将来を見据えた「サステイナビリティ」を科学する学問です。私たちは、地球環境学や生態学などの自然科学の視点からだけではなく、現代社会を解明する社会科学や経済学、歴史学、人間の心を解明する心理学や文化学、さらにそれらの知識を共有するための情報システム学など、様々な学問からアプローチすることによって、持続可能な社会をどうやって作り上げていけばいいのかを考えようとしているのです。ところで、日本の国外にまで目を広げてみましょう。そこには、日本とはまったく異なった状況があります。アジアやアフリカの国々では、いまだに戦争や内戦が続いています。住むところを追われた人々が、何万人、何十万人という数で国境を越え、難民として苦しい生活を送っています。また急速に工業化の進んでいる地域では、工場からの有毒物質のたれ流しや、ひどい大気汚染によって、人々の健康がむしばまれています。さきほどサステイナビリティのことを書きましたが、このような地球社会が、現在のままの状態でずっと持続されていってもいいのでしょうか。当然、それは良くないことですよね。地球環境全体のことを考えても、二酸化炭素をどんどん排出して、温暖化をまねいている現状を、そのまま持続していったらたいへんなことになります。私たちは、地球上のすべての人々の尊厳(尊さ)が守られ、すべての人々が幸福を目指して生きていけるような社会を作り上げ、それを持続可能なものにしていかないといけないのです。そのためには、自由、人権、平和など、いままでの人類の歴史が培ってきた大切なものをきちんと守りつつ、地球上のひとにぎりの人々だけが得をするような社会の構造を変えていかなければならないのです。と同時に、私たちが手にしている科学技術をどのように使っていけば、それがもっとも私たちを幸福にするのかを、あらゆる角度から検討してみなければなりません。また、人々を真の意味で豊かにする経済システムのあり方とは何かを正面から考えてみる必要があります。

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