現代システム科学域とは
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この世にあるすべてのものは、他のすべてのものとつながり合っています。それだけではありません。それらは「つながりの物語」を持っているのです。その「つながりの物語」を解明していくのが、私たちの提唱する「現代システム科学」です。科学という言葉を使っていますが、そこには理系の学問と、文系の学問の両方が含まれています。理系の視点から「つながりの物語」を見ていくこと、文系の視点から「つながりの物語」を見ていくこと、そしてその二つを大きく結び合わせていくこと、それを行なっていくのが「現代システム科学」です。食卓の上の一皿の料理を例にとって、「つながりの物語」を見ていきましょう。お皿にはおいしいお刺身の盛り合わせが乗っています。これらの魚は近くの海でとれたものだけでしょうか。いえいえ、そうではありません。中には遠く大西洋まで行って捕まえてきたものもあります。たくさんの人たちが大きな船に乗り、長い時間をかけて航海をして、冷凍にして持ち帰ったものです。日本は海の幸に恵まれた島国です。古くから遠洋での漁業も行われていましたが、大型船で何ヶ月もかけて地球の反対側まで捕りに行けるようになったのは第二次世界大戦以降のことです。「いろんな魚をたくさん食べるのは日本の伝統なんだ!」というふうに思っていたかもしれませんが、今のように世界中の魚を毎日のように食べられるようになったのはつい最近のことなのです。このことは、伝統とは何なのか、そして社会の近代化とは何なのかという問いにつながっていきます。食卓の魚から、日本の人たちが経験してきた食文化の劇的な変化の歴史という大きな「つながりの物語」が見えてくるのです。その「つながりの物語」をさらに詳しく調べていくためには、その魚は大西洋でどのような回遊をしているのか、彼らは何を食べて生活しているのか、海洋の食物連鎖はどんなふうになっているのか、地球温暖化などの気候の変動が彼らにどのような影響を及ぼしているのかといった、生態学や海洋学や気候学の視点も必要となってきます。また、漁業にたずさわる人々が、漁船や漁法の技術を格段に発展させてきた歴史があるわけで、それについて調べていくのも面白いですよね。きっとそこには様々な「つながりの物語」があることでしょう。食卓から地球の反対側の海洋にまでつながり、そこに存在する複雑な生態系にまでつながり、それを捕って日本まで持ち帰る人たちの生活や漁業の歴史にまでつながっていくのです。このように次々とつながっていく「物語」をテーマにして、理系と文系の両方の視点から、その「つながりの物語」の姿を解明していくというのが、「現代システム科学」です。さて、もう一度食卓の上を見てください。お皿には新鮮なくだものがあります。中には今の季節では普通採れないものもあります。これはどこで作られたのでしょうか。実はハウス栽培で作られたものです。ハウス栽培をすれば、旬の季節ではない時期にでも、おいしいくだものを作ることができます。この「つながりの物語」は、さらに先へと延びていきます。ハウス内の温度や湿度を細かく調整するためには何らかのエネルギーが必要となります。電気を使うとすれば、電力会社の送電線から電気を買わないといけません。その送電線の先には、基盤電力としての原子力発電所があります。福島の原発事故以降、原子力発電所をどうしていけばいいのか、大きな議論が続いているのですが、食卓のくだものの「つながりの物語」は、実はここまでつながるのです。食卓の魚やくだものを、私たちはどこで手に入れましたか?スーパーやコンビニで買ってきたのですね。ではなぜ夕方の時間にそれらのお店に行くと、きちんと魚やくだものが置かれているのでしょうか?それは、私たちがどんな時間にどんなものを買うのかという行動パターンがあらかじめ調べられていて、ちょうどぴったりの時間に売れ筋の商品が並ぶように計算されているからです。それを可能にしているのが、日本全国に張り巡らされた流通のシステムです。コンビニに行くと、欲しいものはだいたい揃っていて、品切れということはあまりありません。それは流通システムが、客の行動を的確に予想して、品切れになる前に商品をきちんと補充していくからなのです。このようなシステムのおかげで、適切な商品を、適切なタイミングで、無駄なく消費者に届けることが可能になりました。このような人間の購買行動にもとづいた生産・流通システムも「つながりの物語」の一つといえるでしょう。

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