大学広報誌OPU Vol.02「紡」
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32誰も知らない人体影響物質を見つけることで、人がより健康に生活できる環境を作ることに役立ちたいと思います。産学官連携機構 先端科学イノベーションセンター研究室のみなさん。2006年の日本環境変異原学会では研究室の教員・学生は全員がスタッフとして活躍し、かつ研究発表を行った。研究から離れると、みんな和気あいあいとしている。商品化されたキット。化学物質受容体と特殊なタンパクを酵母の細胞内で発現させ、毒性発現のメカニズムを利用して、黄色→赤色となることでダイオキシン類やエストロゲン類を検出できる。研究の結果、その際の化学構造や修復のメカニズムも明らかになりました。この研究は発ガンのメカニズムの研究であるともいえます」八木教授は、喫煙者はもちろん、排ガスにさらされることの多い高速道路料金所の勤務者や高速道路のトンネル掃除をする人の肺ガン発生を危惧する。八木教授のもうひとつの研究テーマが、『新しい人体影響物質を探すための遺伝子組み換え酵母の樹立』だ。多くの化学物質はヒト細胞に取り込まれる際、細胞内に存在する受容体と結合し、核に運ばれて特定の遺伝子を発現させる。化学物質の受容体はこれまで約50種類が知られている。これら受容体遺伝子を酵母に組み込み、受容体が働くと色が変わる特別の工夫を遺伝子に仕掛けると、ヒトに何らかの影響をおよぼす物質を簡便迅速に見つけることができる。「この酵母をレポーター酵母と呼びます。私の研究室では、ヒトのエストロゲン(女性ホルモン)受容体とダイオキシン受容体を組み込み、それらが発現すると赤く変わるレポーター酵母を作製することに成功しました」これらの酵母を用いて淀川、神崎川、石津川などを調べたところ、エストロゲン活性もダイオキシン活性も上流から下流に行くほど高いことが分かった。また、特定の地域でエストロゲン活性が非常に高かったが、ここは下水処理場の近くだった。「環境ホルモンの中で最も動物への影響が大きいのはエストロゲン様作用物質です。この物質にさらされると動物はメス化します。大都市の河川で魚のメス化が進んでいるのは、下水道から排出されるエストロゲン様作用物質による内分泌攪乱の影響と考えられます」水中のエストロゲン様作用は陸地に住む人間への直接影響はないが、大気中のダイオキシン様作用物質は高い発ガン性があり人体に大きな影響をおよぼすと考えられる。現在開発された2つのレポーター酵母は長瀬産業(株)との共同研究によりアッセイキット化、商品化され『クロミス』という名で市販されることが決まった。「この2つに続く未知の受容体を発現するレポーター酵母の開発に取り組んでいます。あと3種類は間もなく完成します」酵母が使われる以前はヒトの細胞で培養していたが、特別の培養法が必要で、しかも人体影響物質の発見に時間もかかった。その点、酵母は普通の研究室で培養できて安価、1日で検査結果もでる。ヒトがより健康に暮らすことのできる社会の実現に向けて、レポーター酵母への期待が高まるのは当然だろう。2006年、八木教授がトップに立ち日本環境変異原学会が開催されたが、ここでは研究室の教員・大学院生ほぼ全員が研究発教員・大学院生を含め研究レベルの高さを誇る遺伝子組み換え酵母の樹立に成功表を行った。その中で、博士課程3年の澤井知子さんが最も優秀な研究発表に対して送られる『ベストプレゼンテーション賞』を授与された。「私たちの研究は、文部科学省や厚生労働省をはじめ新エネルギー・産業技術総合開発機構の研究助成も受け、高い評価を受けています。学生には、世界で誰もやっていないような研究テーマを与えています。研究の面白さを知った学生はすばらしい結果を出します。優れた研究室から、優れた成果を!その思いを大切に教育と研究にチャレンジしていきたいですね」と八木教授は語る。

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