大学広報誌OPU Vol.02「紡」
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31質や放射線などによってDNAに損傷を受けており、DNA損傷が修復されないと突然変異につながる。ガン細胞の多くは遺伝子に突然変異が生じ、正常な増殖や分化の制御ができなくなり、さらにプロモーションと呼ばれる増殖刺激を受けて生じる。「私の研究は、環境中に存在する人体や生物に影響をおよぼす因子、たとえば放射線、紫外線、環境化学物質などによる影響のメカニズムを細胞やDNAのレベルから解明することです。特に最近は化学物質の影響メカニズムに絞って研究しています」と八木教授。化学物質の人体影響メカニズムの研究は放射線生物学が基盤にあり、化学物質影響と放射線影響とは切っても切れない関係にある。八木教授の研究テーマのひとつが『環境変異原物質による突然変異のメカニズム』。環境変異原物質は細胞で代謝活性化され、DNAの塩基と結合して損傷をつくる。DNA損傷は大部分が修復されるが、一部はDNA複製の過程で突然変異となる。「たとえばディーゼルの排ガスやタバコに含まれる芳香族炭化水素は、DNA中のグアニンと結合して突然変異を起こします。産学官連携機構先端科学イノベーションセンター先端科学イノベーションセンター理学系研究科八木 孝司教授Takashi YagiProfileイギリス王立癌研究所客員研究員等を経て、2000年、大阪府立大学先端科学研究所教授に就任。2005年、改組により現職に。専門以外でも昆虫(蝶)研究者として知られ、蝶の進化の道筋を論考している。自称「元昆虫少年、現昆虫中年」。個人のブログでは自ら撮影した府大キャンパスの生き物を紹介。「生き物好きの学生が増えてくれたら」と願っている。ヒトのガンの原因の大部分は、環境要因といわれる。ヒトの細胞は環境中の化学物ヒトに影響をおよぼす物質を簡便迅速に見つけるレポーター酵母を作製。特許出願、そして商品化へ!全ての生物は地球環境のさまざまな不利益な影響を受けながら生活をしている。そのため太陽紫外線や自然放射線などに対して、生物は生体内からその影響を取り除くシステムを発達させてきた。しかし、ヒトが環境中に増加させた因子、たとえば環境化学物質については影響除去システムは働くが、それでは不十分な場合が多い。八木教授が現在、研究テーマとして掲げるのは、こうした環境化学物質によるDNA損傷と突然変異のメカニズムである。産学連携の推進や社会貢献を目標とする先端科学イノベーションセンターにあって、八木教授の研究室では2007年に人体影響物質を簡単に発見できるレポーター酵母を開発し、企業との共同研究により商品化が実現した。環境保全への大いなる貢献が期待されている。DNAを傷つける環境化学物質

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