大学広報誌OPU Vol.02「紡」
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「部屋が狭いため、家具などが障害物になっています。また、30代、40代で住宅を購入されている方が多いので、身体機能の非常にいいときに新居での生活を始めます。ところが年齢を重ねると、玄関の上がり框も敷居も負担になってくる。意外かもしれませんが、家の中の事故で圧倒的に多いのは、段差があると認識している高い段差よりも低い段差のところなのです」足の指の厚さがあれば、転倒事故は起こる。おまけに視力が衰え、若い人と同じ視力を得るためにはより多くの明るさを必要とする高齢者は、怖さから夜中のトイレも控えがちになる傾向がある。「個人の生活は、環境によって大きな影響を受けます。環境に問題がある場合、その阻害因子をできるだけ排除してやれば、活動が促進し、活動の促進は心身機能の活性化にもつながるという好循環をもたらします」ところが現在、福祉住宅の改修は建築業者と家族の意向だけで行われるケースが多く、生活を変化させるような改修が少ないと上田講師は指摘する。総合リハビリテーション学部総合リハビリテーション学研究科総合リハビリテーション学部総合リハビリテーション学研究科上田任克講師Tadayoshi UedaProfile大阪市更生療育センター勤務を経て、1994年より大阪府立看護大学医療技術短期大学部、2003年より大阪府立看護大学講師。統合により2005年より大阪府立大学総合リハビリテーション学部講師。1997~98年に大阪府在学研究員としてアメリカ・ニューヨーク州の病院や大学で研修。(社)大阪府作業療法士会監事日本リハビリテーション工学協会SIG自助具代表「日本の65歳以上の高齢者では、交通事故の死亡者と家庭内事故による死亡者はほぼ同じです」と上田講師。若い人に比べると家の中にいる時間が多い上、足腰が弱り、筋力も低下する高齢者にとって、日本の家は危険きわまりないという。日本の住宅の大きな問題点は、狭いことと段差が多いことだ。日常生活活動を制限する要因を取り除き、高齢者が『自立できる』環境づくり。高齢者や障害者の生活支援は、介護を中心に取り上げられることが多いが、こうした人々が在宅で暮らしていくにはまず「環境」を整えることが大切だ。高齢のため、あるいは病気や事故のため、それまでと同じ体の状態でいられなくなったときに、どう環境を設定していくのか。人間の身体の動きの専門家である作業療法士としての経験を生かして、上田講師が取り組んでいるのが『自立度の改善』がはかれる住宅改修と、失われた機能を助ける自助具の研究である。高齢者や障害者にとっては問題だらけの日本の住宅イスから立ち上がるときに手すりにかかる負荷を測定。27

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