大学広報誌OPU Vol.02「紡」
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不老長寿の薬(抗酸化剤)である。「たとえば、アルツハイマー病治療薬ですが、ケロウジ(キノコ)から取れるスカブロニンという化合物が、人のシナプスに栄養を与える物質をたくさん作ることが分かりました。構造が決まった時点で、我々はフラスコを用いてスカブロニンを合成する研究を始めました。頭の活性化、記憶力増進をねらった、おもしろい研究です」現在、合成に取り組んでいるギンゴライド、アコニチンもアルツハイマー病治療薬として期待されている天然物である。しかし、不老長寿の薬とは実現可能なのだろうか?「地球上に住み空気を取り込んでいる人間は、体内に活性酸素ができます。若いうちはミトコンドリアから出てくる活性酸素も少ないのですが、年を取ると40〜50%も出てきて自分の力では消せなくなります。活性酸素こそ老化の原因なんです」この活性酸素を還元してくれる物質、ミロエストロールが発見されている。「タイではかつて280歳まで生きた男性が存在したと伝えられていますが、彼はミロエストロールが含まれる薬草を飲んでいたという話があります」「自分にとっては、有機合成化学と病気の治療、人類の健康がイコール」と語る豊田教授。難病の治療薬や抗酸化剤の開発、なんとも夢のある研究である。豊田教授は天然物合成を山登りにたとえる。「こっちのルートでダメだったら、ベースキャンプに戻って違うルートをたどる。こんなことをくり返してようやく頂上にたどり着きます」しかし、おもしろいのは、この過程で予想もしないような実験事実と遭遇することがあり、それが今まではまったく知られていないような反応であったりする。最後の1行程で、思いもしなかった生理活性天然物ができたことがあり、その時も全く新しいタイプの反応によるものでした。現在、豊田研究室では本人の希望を聞いた上で一人1テーマを与え、天然物合成にチャレンジさせている。学生に課しているのは、必ず9時前に研究室に来ること。「意志の弱い人間に研究はできません。あと学生に期待するのは、トライしていくというチャレンジ精神です」天然物は小さな分子だが、巨大なタンパク質を制御するパワーは想像を超えるものがある。病気の原因となるタンパク質を制御することのできる天然物を合成する技術は、今後ますます注目を集めていくことだろう。天然物合成は山登りにたとえられます。こっちのルートがダメと分かったら、ベースキャンプに戻って別のルートを登り、これをくり返しながら最後にようやく頂上にたどり着く…。理学部 理学系研究科学生に望むのは、強い意志とチャレンジ精神効率的な生物活性天然物の合成を達成するために、ユニークな方法論の開発や新しい素反応の開発にも挑んでいる。18

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