大学広報誌OPU Vol.02「紡」
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ES細胞を使えば、新薬開発における実験動物の犠牲を大幅に減少させることもできます。生命環境科学部 生命環境科学研究科心筋のES細胞はドクドクと拍動稲葉研究室のみなさんと、お散歩から帰ったばかりのビーグル犬・モミジ。稲葉教授が手にしているのが細胞を細かく分離する『ステムセルナイフ』。イヌのES細胞の分離には、脱出胚盤胞期胚の内部細胞塊を用いるのが、コロニー(単一細胞由来の細胞塊)の形成率を見ると最も効率がよかった。しかし、初代コロニーはこのままでは増殖しないため、普通は酵素を使ってコロニーを小さく分離して継代していく。ところがイヌの場合は感受性が高くてダメージを受けるため、先のとがった針でコロニーを物理的に分離して培養する方法をとった。「酵素による継代は3代目で終わりましたが、物理的継代群では8代目以上まで未分化な状態を維持できました」この細胞は、神経や心臓の筋肉など5種類の細胞に分化することができた。心筋の細胞は1分間に60回、ドクドクと拍動することも確認されている。これは心臓の拍動と同じ回数である。「今回の細胞が本当にES細胞かどうかは、さまざまな方法で解析作業を続けています。現時点ではES様細胞と呼ぶべきかもしれませんが、サルなど他の動物のES細胞とデータ的にも形態的にも似ていて、まず間違いはありません」ES細胞をイヌの再生医療につなげるには研究開発が必要だが、ヒト同様に生活習慣病を患うイヌたちの糖尿病や心臓病の治療のほか、事故などの脊髄損傷で動かなくなった体を治せる可能性もでてきた。イヌES細胞は動物の高度医療そのものに貢献できるうえ、ヒトの再生医療にも応用できるだろう。また、ヒトと同じような病気を患うイヌのES細胞を毒性試験に使えば、実験動物の大幅な減少にもつながる。「現在、動物病院の潜在マーケットは約8000億円と想定されています。飼育率や家族同様の治療を望む飼い主の増加を見込めば、イヌのES細胞は市場規模的にも大いに貢献しうると私は確信しています」府大の獣医学は、全国有数の歴史と伝統を誇っている。しかし、その教育内容や目標はかつてとは様変わりしたと稲葉教授は語る。「私が学生の頃の獣医学は、牛や馬などの家畜が主体でした。国家試験もほとんどが家畜の問題です。獣医の希望者は少なく、開業は聴診器1本でできると考えられていて、人間の医療とは格段の差がありました」ところが現在では学生の半分以上がイヌやネコなど小動物の臨床に進む。高度獣医療の発展とともに、獣医も高い医療レベルを求められるようになった。現在、獣医学科では基礎教育、臨床教育、応用教育すべてにわたって現状に即した教育を行い、研究者養成にシフトした体制も整いつつある。成長めざましい獣医学分野のこれからを稲葉教授は分析する。「獣医学の専門分野は、ますます細分化、高度化が進みます。獣医の活躍分野も広がります。たとえば、鳥インフルエンザ、BSEなどが大きな社会問題となっていますが、公衆衛生関係では期待される存在となるでしょう」2009年、生命環境科学部獣医学科は新キャンパスへと移転する予定だが、獣医学の先端研究にもさらなる拍車がかかるだろう。上皮細胞様神経細胞様線維芽細胞様神経細胞様色素産生細胞様心筋細胞様イヌES細胞は、さまざまな細胞に分化した獣医療学や再生医療への応用教育も研究も最先端の獣医学科をめざす分化細胞16

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