大学広報誌OPU Vol.02「紡」
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中でも特異なことに気づく。イヌの発情は他の動物と違い季節変動がなく、年中不規則なパターンでくり返される。また、妊娠の有無に関わらず約2カ月の発情休止期があり、その後数カ月の無発情期が続くため、1年に1〜2度の出産しかできない。「発情をおこす元の原因が分かれば発情休止期が短縮でき、盲導犬などの有益なイヌを増やすことができます。しかし、たくさん子どもを作る方法としては、他にいい方法があるんじゃないか…というのがES細胞の研究の出発点でした」と稲葉教授は語る。ES細胞とクローン技術を結びつければ、新しい個体を作ることも可能だ。また、家族同様に扱われるイヌが増えている中、病気やけがで苦しむイヌの再生治療の実現にもつながる。約5年前からイヌのES細胞の研究を始めた稲葉教授のグループは、2006年にビーグル犬から取り出した28個の受精卵から19個のES細胞を作製することに成功した。生命環境科学部生命環境科学研究科生命環境科学部生命環境科学研究科稲葉俊夫教授Toshio InabaProfile2001年、大阪府立大学大学院農学生命科学研究科(現、生命環境科学研究科)教授に就任。農学博士。研究テーマは「イヌES細胞株の樹立と再生獣医学への応用」。地球に優しく、資源の有効利用、早起きがモットー。稲葉教授は獣医外科学教室の出身で、長年、内分泌の研究を専門としていた。生殖系ホルモンの動態や繁殖機能の調整を調べる過程で、イヌの生殖ホルモンが動物種のペットやヒトの再生治療への応用が期待できるイヌのES細胞の作製に成功!成長した生物の細胞は、普通は特定の役割を担うように機能が限定されており、分裂増殖しても胃は胃の細胞、皮膚は皮膚の細胞にしかならない。しかし、受精卵は最初はひとつの細胞だが、分裂増殖していくと、身体の各部分向けに機能が分かれたさまざまな種類の細胞になっていく。そのため受精した胚から取り出したES細胞(胚性幹細胞)は、あらゆる臓器や生体組織に成長できる「万能細胞」と呼ばれている。稲葉教授を中心とする研究グループは、イヌのES細胞を作ることに初めて成功。夢の医療といわれる再生医療への扉を開いた。内分泌の研究がES細胞の研究へと発展ヒトと同様に生活習慣病などの自然発症例が多くみられるイヌを用いて、ES細胞の生産方法を確立。15

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