大学広報誌OPU Vol.01「新」
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応用生命科学専攻生物情報科学分野は、従来のバイオサイエンス研究分野に加えて情報や工学の研究領域を融合した新しいタイプの研究・教育組織。細胞情報化学が専門の杉本教授は、細胞内のタンパク質を3色に色づけして可視化することで、細胞分裂を生きたままの細胞で観察することに成功した。細胞内でくり広げられるドラマを、コンピュータの3次元の画像で見ることができるわけだ。細胞はどのように分裂し、細胞内では何が起こっているのか…。可視化細胞はセルセンサとして利用され、抗ガン剤をはじめとするさまざまな新薬開発にも貢献している。以前は細胞内で起こるさまざまな現象を調べるには、細胞を破砕し、酵素活性を測定する、あるいは細胞を固定して免疫染色するなどの方法が用いられてきた。これだと細胞は死に、おまけに時間がかかるという難点があった。近年の遺伝子操作技術の発展により、細胞を破壊することなく生きたままの状態で、細胞内のレセプターや酵素など、既知、未知を問わず、さまざまなタンパク質の働きや動きを観察することが可能となってきた。「バイオが情報や工学の技術と結びつくことで、いまでは細胞内のタンパク質を自由に色づけし、生きた細胞内での動きを調べることができるようになったわけです」細胞に色をつける際に用いられるのが、クラゲやサンゴ由来の蛍光タンパク質だ。蛍光タンパク質の遺伝子を、動物細胞に入れると細胞が蛍光を発する(色がつく)。もともと細胞は無色だから、そのままであれば細胞全体が蛍光を発するだけだが、細胞の特定の遺伝子と蛍光タンパク質の遺伝子を遺伝子操作で繋いでやれば、その標的部分だけに色がつく。「これを私たちは、タグをつけると呼んでいます。好きな遺伝子を取ってきて、タグになる遺伝子とつなぎ、もう一度細胞内に戻します。例えば、核と染色体は青、核膜は赤、中心体と紡錘体は緑というように」と杉本教授。人の生きた細胞の分裂も、タグをつけた細胞で見れば、時間が経つに連れて核膜が消え、やがて染色体が赤道面に並ぶ様子や、染色体が紡錘体に引っぱられて移動し、その後再び核膜ができていく様子が手にとるように分かる。色づけした細胞の観察は、蛍光顕微鏡で拡大した像をカメラで撮影し、コンピュータで記録していく方法がとられる。蛍光顕微鏡には大きな透明のケースがついている。中には細胞が入ったシャーレが置かれ、ケース内は細胞が生きていけるように、温度、湿度などが制御されている。高感度CCDカメラで1〜2分おきに自動的に撮影され、何千枚もの画像が蓄積される仕組みになっている。「ただ、大変なのは、生きた細胞は動くことです。動き回って視野から消えることもしばしば。また、分裂するときは細胞はふくらむため、高さが変わるので焦点が段々ずれてきます。あらかじめその分を見越して高さを変えて撮影していますが、これも限界があるので、ある程度の数の細胞を撮るしかない」このあとの作業が実は大変だ。撮影した何千枚もの画像データから、分裂が始まった時点の画像を見つけだし、その前後を時系列で並べていく。ひとつの細胞の分裂の最初から最後までを画像データとしてそろえるのは、苦労を伴う作業だという。しかし、それをもってしてもこの研究にやりがいを感じるのは、未知の遺伝子の解明や、新薬開発などに直結する可能性を、この研究がはらんでいるからだ。この研究のおもしろさは、「やはり生きた細胞の動きにある」と杉本教授。「生物の教科書と、生きた細胞を見比べると、思っている以上に違うことに気付きます。このほかにも、驚くことはいっぱいあります。たとえば、ここの研究員が発見したのですが、生きた細胞内には90〜100秒周期で集まっ生命環境科学部・生命環境科学研究科杉本 憲治教授Kenji SugimotoProfile2001年、大阪府立大学農学部(現、生命環境科学部)教授に就任。理学博士。研究テーマは「染色体の分配と細胞分裂について」。趣味?薫り高いコーヒーを飲みながら、アコースティックギターを聞くこと。生きている細胞の見たい部分に色をつける生きた細胞は動くから、画像処理は大変な作業となる細胞の核・染色体、核膜、中心体を可視化し、生きたままの細胞でその動態を解析・研究する。生命環境科学部生命環境科学研究科応用生命科学専攻生物情報科学分野遺伝子の働きの新しい発見につながる可能性9

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