大学広報誌「扉」
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Osaka Prefecture University1021世紀COEプログラムに採択された吉田教授の研究は、有機物を豊富に含んだゴミを、水だけで新たな資源に変えるという画期的なものです。日本で1年間に出るゴミ(下水汚泥や生ゴミ)の量はおよそ4億6000万トン。その7〜8割が有機性のゴミで占められます。こうしたゴミはこれまでは焼却・埋め立て処理されることがほとんどでした。しかし、もしゴミが資源に生まれ変わるならば、ゴミ問題は大幅に改善されるはず。そして、資源が循環する持続可能な社会が現実のものとなります。研究で用いる水は亜臨界水という特殊な水です。水は約218気圧、374度Cを超えると液体でも気体でもない超臨界水という状態になります。この状態より低温・低圧で、強い分解力を持ち併せた水が亜臨界水。亜臨界水は有機物内の高分子の鎖を一瞬のうちに断ち切る能力を持っています。吉田教授は魚のあら(骨、はらわた、ウロコなど)を亜臨界水で分解し、さまざまな資源を取り出すことに成功しました。魚のあらを加水分解すると、固体と液体に分かれ、液体はさらに水溶液と油分に分かれます。固体にはカルシウムやリンが、水溶液にはアミノ酸や有機酸が、油分にはDHAや燃料に利用できる物質が含まれます。リンはさまざまな工業製品に利用されていますが、近年枯渇すると予測されており、この技術は非常に注目されています。また、抽出される有機酸中の乳酸は、自然に分解して土にかえる生分解性プラスチックの材料に。このほか、医薬品、健康食品、家畜の栄養剤、食用油、バイオディーゼル燃料、メタンガスなどさまざまなものが取り出せます。ゴミはまさに豊富な資源がつまった「宝の山」なのです。国連大学が提唱したゼロエミッションとは、地球の限られた資源の使用効率を高め、廃棄物(エミッション)がゼロになることを目指す構想です。吉田教授が推進しようとする地域分散型ゼロエミッションの考え方は、廃棄物をゼロにしようということではなく、出るものは仕方がないからそれを他のプロセスの資源として利用しよう。ある地域で使い回して廃棄物の積分値をゼロに近づけようというものです。そこで大切になるのがネットワークの構築。どの廃棄物がどの工場の原料として使えるかを知ってもらうために、データベースの構築・公開・活用が重要になってくるでしょう。この地域分散型ゼロエミッションに向けて、大阪府による大阪エコタウン構想がすでに動き始めています。吉田教授自身のモットーは「机の上できれい事を語るだけでは仕方ない。もっと現場を見て、基礎研究と現場を行ったり来たりしながら研究する」こと。21世紀COEプログラムに採択された有機資源循環科学・工学もこうして生まれました。そして高校生や大学生へのメッセージとして「ただの水を使って圧力と温度を変えるだけで、少ないエネルギーでゴミが資源に変わる!化学の化ける魅力を、もっと若い人たちに知ってほしいですね」。水を反応場に用いる有機資源循環科学・工学工学研究科 吉田弘之教授が生ゴミを資源に変える水のあらが医薬品・食品・工業材料に魚食品加工工場 食品産業 一般家庭 化学工場 分離回収 技術 ガスの 発電 新規模産業・市場 経済への波及効果 有機性廃棄物 年間2億8000万トン 現行処理 主として焼却・埋立処理 活性汚泥処理 余剰汚泥 バイオガス 酢酸 酢酸などの 低分子 年間1億9,000万トン 高価物質の分離 総発電量の 約0.3%が 見込まれる 平成11年度総発電量 1,066,130百万kWh乳酸 生分解性プラスチック 亜臨界水 分解による 低分子化 亜臨界水 抽出技術 高速メタン発酵 連続亜臨界水加水 分解装置の構築 高速高消化率 メタン発酵 技術の確立 本研究開発 ロエミッション社会実現のためにゼ学の魅力は「化ける」こと化

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