平成28年度版(平成27年度報告)環境報告書
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36 OPU University Social Responsibility Report 【コラム】アルゼンチンアリの防除に向けて アリは、地球の陸上環境でもっとも繁栄した生物のひとつだ。アリ1匹の大きさはヒトの100万分の1にも満たない。しかし、地球上のアリの数は1京(100万兆)匹にもおよび、これらを足し合わせると、地球上のヒト全員を足し合わせた重さに匹敵するといわれている。また、アリは、他の無数の動植物にも大きな影響を与えている。例えば、他の昆虫を食べる捕食、昆虫や植物をかみ砕き土にかえす分解、植物の種子を運搬する種子散布、花外蜜などの報酬の代償として植物を外敵から守る植物防衛などである。これらの働きは生態系の基盤となっており、もし地球上からアリがいなくなってしまったら、地球全体の生態系は崩壊するといっても言い過ぎではない。 生態系を守る番人としてのアリの機能が働かない例もある。その例が、近年、日本に侵入した特定外来種のアルゼンチンアリ(写真1)による生態系の攪乱だ。働きアリの体長は約2.5mmと小さいが、攻撃性がつよく、侵入先で在来の生物を襲い、絶滅に追いやることもある(写真2)。つまりアルゼンチンアリの侵入先では生物多様性が極端に低下するのである。人間に対しては、家屋に入ってきて食事に群がったり、寝ている時に体の上を這い回ったりするという不快害虫としての被害が多数報告されており、アルゼンチンアリは世界の侵略的外来種ワースト100にも選ばれた。 2015年10月、そのアルゼンチンアリがとうとう堺市から発見されてしまった。私は、堺市に侵入したアルゼンチンアリを撲滅するために、環境省・堺市と協力して防除対策をスタートさせた。この戦いは長期戦になりそうだ。なぜなら、最低でも3年間は薬剤を処理し続けないと、アルゼンチンアリを撲滅できないという研究があるからである。もし皆様の周りでアルゼンチンアリの防除が始まるのであれば、ぜひ気長に協力していただきたい。その協力は、自宅に入ってくるアリを撃退するだけでなく、地域の生態系や生物多様性を守ることにつながるのだから。 担当:上田 昇平助教(生命環境科学研究科) 写真2.アルゼンチンアリに攻撃されるオオハリアリ。大きなオオハリアリもアルゼンチンアリの数には太刀打ちできない。 写真1.アルゼンチンアリの女王(中央左)と働きアリ(右上)。働きアリは卵と幼虫を運搬している。

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