平成28年度版(平成27年度報告)環境報告書
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32 OPU University Social Responsibility Report 春が近づくとサクラの開花日がいつなのか気になりますが、どのように推定しているのでしょうか。今回はサクラの開花日推定に関わっておられる生命環境科学研究科准教授の青野靖之先生にお話しをうかがいました。 Q サクラの開花推定の指標に用いられる樹種と推定方法を教えてください。 サクラの開花日推定には、ソメイヨシノが多く使われます。ソメイヨシノは日本全国に植栽されている上に、接ぎ木で殖ふやされたクローンです。クローン植物は、全ての個体で遺伝子が同じため気温の変化に対する応答の差が個体間でほとんどありません。東北と九州のサクラを大阪に持ってきて植えても、ほぼ同じ時期に開花するでしょう。この性質から、数式を用いて開花日を推定するのにソメイヨシノは適しており、温度変換日数(以下、「DTS」)という数式を用いて推定します。推定したい年の日平均気温が分かれば、計算でき、実際の開花日との誤差も少ない数式です。 また、サクラなどのバラ科の植物は気温の積算値が開花日時に影響することが知られています。気温のみで開花日を推定できるので、シンプルに数式化できます。 ところで、九州では気温が平年より高いと、サクラ前 線は福岡から鹿児島へと北から南へ移動します。一方で寒冷な年だと、サクラ前線は南から北へ移動します。気温によって開花日が異なるのは面白いですね。 Q サクラの開花には温度以外にも降水量は関係しないのですか。 一般的に降水量が多いと気温が高いため、開花日に気温が影響するなら降水量も関係するといって良いのではないかという意見はよく聞きます。確かに、日本海側では、冬は積雪量が多いため気温が低く、開花は遅れます。ところで積雪量は降水量として観測されます。冬の日本海側では、積雪量すなわち降水量が多いのに気温が低いです。よって気温によって開花日が左右されるのであって、降水量は関係しないと考えられます。 サクラ開花日推定と環境応答 青野 靖之准教授(生命環境科学研究科) ソメイヨシノの開花日の推定方法 開花日を推定するためには、DTSを用いて計算します。DTSはソメイヨシノが日平均気温15℃の環境に1日中にいた場合の成長量を、1日分の成長に相当すると示した指数です。DTSは以下の式で表されます。 DTSe.日平均気温標準温度日平均気温標準温度 この式の標準温度は15℃(288.2K)としています。この気温はソメイヨシノが開花する時期の全国平均気温(K)です。また、式中の 8.410 は以下の式で表されます。 8.410温度特性モル気体定数 温度特性値7010 J mol モル気体定数8.314 J K mol ソメイヨシノはクローン植物のため温度特性は全国共通の値をとります。 ここで開花日の計算方法を示します。 まずDTSを1日ごとに計算します。次に、気温がつぼみをふくらませ始める平均日〈起算日)からDTSを足していきます。実験データと解析結果から、このDTSの積算値が23.8日分より大きくなると開花することがわかっています。このことは、DTSの式を使って日平均気温が15℃の日が24日間続けば開花することに相当します。図3-2と表3-1でDTSを用いた推定方法を示します。

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