大阪府立大学

本学教員の分子標的中分子ペプチド創出の支援がAMED 令和4年度「生命科学・創薬研究支援基盤事業(BINDS)」に採択

更新日:2022年3月31日

本学 理学系研究科 生物科学専攻の藤井 郁雄 教授の研究開発課題が、国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(以降、AMED)の令和4年度 「生命科学・創薬研究支援基盤事業(BINDS)(解説1)」に採択されました。

AMEDは、医療分野の基礎から実用化までの研究開発の成果が円滑に実用化されるよう、大学や研究機関などが行う研究を支援し、研究開発やそのための環境整備に取り組む機関です。内閣に設置された健康・医療戦略推進本部の意を受けて、文科省・厚労省・経産省からの補助金をもとに研究予算の管理・配分を行っています。

AMEDでは令和4年度から新たな体制で「生命科学・創薬研究支援基盤事業(BINDS)」を開始します。生命科学・創薬研究支援基盤事業では、医薬品のモダリティ(解説2)の多様化や各種技術の高度化に対応したライフサイエンス研究支援基盤の拡充として、創薬研究のみならず広くライフサイエンスの発展に資する基礎研究を推進する基盤の構築、クライオ電子顕微鏡等の共用ファシリティのDXの推進など研究支援基盤の高度化、また新しいモダリティ(核酸医薬、中分子医薬、改変抗体など)に対応した技術支援基盤の構築に取り組みます。

採択内容

公募研究開発課題名 化合物ライブラリーの整備・提供とスクリーニング系構築等による支援と高度化
研究課題名 分子標的中分子ペプチド創出の支援
研究実施予定期間 2022年度から5年間(最長)

研究開発課題のポイント

現在、分子標的医薬として抗体医薬が使われています。しかし、高い製造コストや、細胞内に入らないため細胞内の分子を標的にできないなど致命的な問題点も指摘されています。藤井研究室では、抗体に代わる新しい創薬モダリティとして、安定なヘリックス・ループ・ヘリックス(HLH)構造をもつ分子標的ペプチドの開発に成功しています。

本研究では、分子標的HLH ペプチド・ライブラリーとファージ表層提示法・酵母表層提示法を用いた本学独自のスクリーニング技術を活用して、創薬等ライフサイエンス研究に資するヒット化合物創出に至るまでの「支援」と「高度化」を担当します。

「支援」では、国内の外部研究者より提供される標的分子(疾患関連タンパク質など)に対して、独自の分子標的HLH ペプチド・ライブラリーを用いてスクリーニングし、目的とする分子標的HLH ペプチドを大量合成して外部研究者に供給します。それにより外部研究者は創薬を進めることが可能になります。

「高度化」では、抗体ではできない細胞内移行性の分子標的HLH ペプチドを開発します。具体的には、分子標的HLH ペプチドと薬物の複合体、二重特異性を持つ分子標的ペプチドなど高度な技術開発に取り組み、日本の医薬品開発に貢献します。

また本学では、創薬科学研究者をめざす学生のために、令和2年度より創薬科学副専攻をスタートしています。特に、従来の薬学教育では履修するのが難しいバイオ医薬の創薬科学を中心に教育を行うものですが、この副専攻の学生を対象として、本事業を活用した創薬科学実習を設定し、創薬に資する薬理評価系・スクリーニング系の理論と実践について教育する計画です。

研究代表者コメント

藤井 郁雄 教授

藤井 郁雄 教授

大阪府立大学で独自に開発したヘリックス・ループ・ヘリックス(HLH)構造のペプチドが、新しい創薬モダリティとして注目されています。この分子サイズの医薬品は、中分子医薬品と呼ばれています。一般的な低分子医薬品は、注射、経口、パッチなどさまざまな形での投与が可能で適応性が良く、抗原性もありません。

しかし、特異性が低く疾患を引き起こすタンパク質以外にも作用することがあるので、時として深刻な副作用を誘発します。一方、抗体などの高分子(バイオ)医薬品は、標的としたタンパク質に特異性に作用するので、副作用が少ない。その反面、投与法の適応範囲が狭く病院での点滴が必須なり、また、高額な医療費がかかります。中分子医薬には、抗体など高分子医薬品と同様に高い特異性と低分子医薬品のような広い適応性が期待されています。

しかし、中分子医薬の研究は黎明期を迎えたばかりで、解決しなければならない多くの課題(薬物輸送、体内動態、毒性試験など)を抱えています。この生命科学・創薬研究支援基盤事業(BINDS)では、大阪府立大学の総合知を駆使して、中分子医薬品の課題を解決し、分子標的中分子ペプチドを大阪府立大学発の創薬モダリティとして確立します。また、本BINDS事業では、創薬科学を志す若手研究者の育成が、大事な使命となっています。そこで、大阪府立大学創薬科学副専攻の教育・研究をバックアップし、人材育成に貢献します。

SDGs達成への貢献

SDGs3と4番

大阪府立大学は研究・教育活動を通じてSDGs17(持続可能な開発目標)の達成に貢献をしています。

本研究はSDGs17の目標のうち、「3:すべての人に健康と福祉を」「4:質の高い教育をみんなに」等に貢献しています。

用語解説

解説1 生命科学・創薬研究支援基盤事業(BINDS: Basis for Supporting Innovative Drug Discovery and Life Science Research)

優れたライフサイエンス研究の成果を医薬品等の実用化につなげることを目的としたAMEDの事業です。タンパク質等の構造解析、ライブラリー・スクリーニング、構造展開、ゲノミクス解析、疾患動物モデル作出、薬物動態・安全性評価、インシリコスクリーニングなどの高度な技術を有する全国の最先端研究者が集まり、研究ユニットを組織し、国内のライフサイエンス研究を支援、推進します。

解説2 モダリティ

一般的には「様式」や「様相」という意味ですが、創薬分野においては、低分子化合物、ペプチド(中分子)薬、抗体医薬を含む蛋白質医薬、核酸医薬、細胞医薬、再生医療といった治療手段のことを指します。従来、製薬業界では低分子化合物(化学合成医薬品)を治療手段とする創薬が大半を占めていましたが、1990年代以降、抗体医薬など蛋白質医薬の創薬が台頭し、さらに近年では、核酸医薬(mRNAワクチンなど)や細胞医薬、再生医療の研究開発(iPS細胞由来網膜色素上皮細胞や心筋シートなど)も活発化し、モダリティの選択肢の幅が広がりました。

関連情報

お問い合わせ

大阪府立大学 理学系研究科

教授 藤井 郁雄(2022年4月以降の所属:大阪公立大学 研究推進機構 特任教授)

Eメール fujii[at]b.s.osakafu-u.ac.jp[at]の部分を@と変えてください。