犬の血液細胞からイヌiPS細胞の作製に成功
更新日:2021年2月2日
本学 生命環境科学研究科 獣医学専攻の鳩谷 晋吾 准教授(細胞病態学教室)らの研究グループは、これまで樹立が困難とされていた犬の血液細胞からイヌiPS細胞を高効率に作製することに成功しました。
研究概要
イヌiPS細胞は作製が難しく、これまでの手法では、犬を手術して切除した皮膚や脂肪由来の細胞からしかiPS細胞を作製できませんでした。今回の成果により犬への負担が小さく、かつ採血で容易に入手できる血液細胞から高い効率でイヌiPS細胞を樹立する方法を開発しました。
この手法によって得られたiPS 細胞は、いろいろな細胞のもととなる外胚葉、中胚葉、内胚葉の3胚葉全てに分化することが示されました。またさまざまな犬種や患者犬からもイヌiPS 細胞の樹立が可能になり、今後の獣医再生医療・創薬・病態解明などの研究に大きく貢献する成果となります。
本研究成果は、大阪府立大学大学院 木村和人 獣医学専攻博士課程1年、塚本雅也 獣医学専攻博士課程3年および本学教員(田中美有、桑村充、杉浦喜久弥、鳩谷晋吾)、筑波大学 西村健 准教授、国立研究開発法人産業技術総合研究所 中西真人 名誉リサーチャー(兼 ときわバイオ株式会社)、大高真奈美 元研究員(現所属 ときわバイオ株式会社 )らとの共同研究によって進められ、米国東部時間 2021年1月15日に細胞生物学系の学術雑誌である「Stem Cells and Development」にオンライン掲載されました。
論文タイトル「Efficient Reprogramming of Canine Peripheral Blood Mononuclear Cells into Induced Pluripotent Stem Cells」
研究成果のポイント
- イヌ血液細胞である末梢血単核球(解説1)に欠損持続発現型センダイウイルスベクター(解説2)SeVdp (KOSM)302Lで初期化(解説3)遺伝子を導入、初期化時に複数の低分子化合物(解説4)を添加した手法
- 得られたiPS 細胞は、3胚葉全てへ分化することが確認された。
- 獣医学分野における疾患モデル化や再生医療、また遺伝子疾患をもつイヌの研究にも応用が期待できる
用語解説
解説1 末梢血単核球
血液から分離された単球やリンパ球を含む単核球(単核細胞)
解説2 センダイウイルスベクター
ベクターとは、遺伝子を体内に入れるのに必要な遺伝子の運び屋であり、本研究では欠損持続発現型センダイウイルスベクターであるSeVdp (KOSM)302Lを使用した。このベクターは、4つのヒト初期化遺伝子(OCT3/4, KLF4, SOX2, c-MYC)を細胞に導入して同時に発現できる。
解説3 初期化
分化した体の細胞を受精卵のように未分化な細胞に戻すこと。体細胞に初期化遺伝子を導入することで未分化な細胞(=iPS細胞)となり、さまざまな細胞へ分化できる能力を持つようになる。
解説4 低分子化合物
分子量が小さい化合物を低分子化合物といい、本研究では複数の低分子化合物を使用することで、血液細胞の初期化が促進されイヌiPS細胞の作製に成功した。
研究動画
New Stem Cell Therapy in Dogs—A Breakthrough in Veterinary Medicine
お問い合わせ
大阪府立大学大学院 生命環境科学研究科 獣医学専攻
准教授 鳩谷 晋吾
Tel 072-463-5379 Eメール y- hatoya[at]vet.osakafu-u.ac.jp[at]の部分を@と変えてください。