大阪府立大学

2019年度 学位記授与祝辞

更新日:2020年3月24日

皆さん、卒業、修了おめでとうございます。心からお慶び申し上げます。

令和になって初めての春季の学位記授与式を、本日Uホールにて挙行する予定でしたが、新型コロナウイルス対策の一環で、中止せざるを得なくなりました。皆さんの安全確保と感染拡大防止の観点から、苦渋の決断であったことをどうかご理解賜りますようお願いいたします。お一人お一人の学位記は、本日確実に皆さんに伝達される手はずですが、学長としましては、直接学位記を授与することができず、直接お話しすることができないのは本当に残念です。せめてこの電子媒体を通して、皆さんにお祝いのメッセージをお届けしたいと思います。

本日、学域を卒業して学士の学位を得られた方は1,322名、大学院博士前期課程を修了して修士の学位を得られた方は648名、博士後期課程を修了して博士の学位を得られた方は56名、合計2,026名となります。

それぞれの学位を取得されて、今後は様々な道を歩まれることと思いますが、大阪府立大学で学んだ多くのことを糧に、今後の人生を実りあるものにしていただきたいと願っています。学んだ学問はもとより、ここで出会った多くの教員、職員、先輩、後輩、友人を今後も大切にし、人生をより豊かなものにしていただきたいと願っています。大学の評価は、送り出した卒業生や修了生によって、長い年月をかけて形作られるものと理解しております。皆さんの今後の活躍を大いに期待しております。

さて、人生の節目を迎えられた皆さんに、本日は3つのことをお話ししたいと思っています。「夢を持つこと」「学び続けること」そして「人との出会い」の3つです。

夢を持つこと

まず「夢」の話から。昨年のノーベル化学賞が吉野彰さんらに授与されたのは記憶に新しいところです。受賞理由は「リチウムイオン電池の開発」です。吉野さんは私と研究分野が極めて近く、私も電池材料を研究してきましたので、同じ日本人の受賞ということ以上に、大変嬉しく思っています。吉野さんは企業の研究者で、「研究にはゴールがあり、その先に宝がある」と仰っています。リチウムイオン電池は今や、スマートフォンやエコカーなどで、私たちの生活に欠かすことのできない製品ですが、研究開発を成し遂げるには、ゴール、あるいは目標、ビジョンといったものを明確に持つことが重要であると説いておられます。そして、それらよりもう少し実現可能性が低い場合には「夢」という言葉が使われると思います。ディズニーランドという地上に夢の楽園を創ったウォルトディズニーは「If you can dream it, you can do it;夢見ることができれば、それは実現できる」と言っています。私は40年前本学の教員になり、長く教育・研究に携わって来ましたが、20年以上前、ある学会機関誌に「夢」というエッセイを寄稿したことがあります。その中で、研究に関して「全固体電池という新しい電池を実現したい」ということを書きました。その頃、全固体電池は夢のまた夢でした。その後研究室の皆さんと地道に研究を重ねてきた結果、現在では車載用として実用化前夜を迎えています。リチウムイオン電池の次を担う究極の電池として、是非実用化を見届けたいと考え、私は学長になった今でも全固体電池の研究を続けています。研究室の学生の皆さんには、節目を迎えたときには、20年後、30年後をどう生きたいかを考えてくださいと言い続けてきました。「成功しようとするより、夢を叶えようとする方が楽しい」という言葉もあります。本日卒業・修了を迎えられる皆さんも、是非皆さんなりの夢やビジョン、ゴールや目標を持ってそれに向かっていただきたいと思います。

学び続けること

次は「学び続けること」です。中学や高校で学んできたこと、数学や国語など色々な勉強においては、問題に対する答えは一つでした。大学では、様々な学問を学ぶ中で、答えが一つのこともあれば、一つでないことも多くあったことでしょう。そのような答えが一つではない難題に対処できる力を養うための多くのカリキュラムが大学には用意されていたと思います。皆さんが社会に出ると、答えがすぐに見つからない複雑な問題を、多くの人たちと協力して解決していくことがさらに多くなってきます。その答えは社会に出てからの学びによって引き出すことができます。しかし、継続的な学びが無ければ問題解決は困難でしょう。大阪府立大学では、皆さんは自ら学んでいくための基本を身につけていただいたと私は思っています。どうか向上心を持ち続け、今後も自身を磨き続けていただきたいと思います。学ぶ姿勢が大切であり、常に新しいことを吸収し、新しい発見に感動できる人であっていただきたいと願っています。

私は小学生の頃、エジソンのような発明家になりたいと思っていました。エジソンは「大学とは、学習の場である。ビジネスも、学習の場である。人生そのものが、学習の場なのだ」と言っています。アインシュタインは「私に特別な才能はありません。非常に強い好奇心を持っているだけです」と言っています。本日皆さんが手にされた学位記は、皆さんがこれから学び続けていくための激励の書と思っていただけませんか。皆さんの豊かな人生のため、一生学び続けることを是非この機会に決意していただければこの上ない喜びです。

人との出会い

3つ目は「人との出会い」です。どんなに優れた人でも、一人では生きていくことはできません。色々な人の助けを借りることで人は生きていくことができる。これまで皆さんは、多くの人と出会い、今日まで成長してこられました。一生でどれだけの人と出会えるでしょうか。限られた時間の中で出会える人の数は、多く思えても実際には少ないものです。何億人もいる中での人との出会いは奇跡とも言えます。これまでの全ての出会いに感謝してみませんか。出会いに感謝をすることで、きっと新しい縁を繋ぐことができます。先日亡くなった、日本プロ野球が2リーグ制になって初の三冠王でID野球の創始者といわれる野村克也さんは「コンピューターがどんなに発達しようとしても、仕事の中心は人間だ。ならばそこには“縁”と“情”が生じる。それに気づき、大事にした者がレースの最終覇者となるのだと思う」と述べています。私は40年の教員生活の中で、研究においても日常生活においても“縁”というものの大切さを実感し続けてきました。大学や大学院時代の出会いは人生の中でも一生の付き合いとなるケースが多いと言われています。出会いに感謝し、今後も縁を大切にされることを皆さんにお願いして、3つの話を終わりたいと思います。

最後に

ところで、アメリカの多くの大学では卒業式のことをCommencementと言います。Commencementは「はじまり」と言う意味ですから「卒業」という言葉とはすこしイメージが異なっています。これから知の世界、真実の世界に旅立って新しい生活を始めましょうというニュアンスが込められているとのことです。私自身も1年前の3月に教員を卒業して、これから大学統合に向かう学長としてスタートしたばかりです。令和となった新しい時代に、一緒にチャレンジしていきましょう。

最後になりますが、皆さんが本日学位記を手にされたのは、お一人お一人の努力の賜であることは言うまでもありませんが、皆さんを支えてくださったご家族を始め、周囲の方々のご支援があってのことと思います。そのことを強く認識し、そのような方々に、是非感謝の気持ちをきっちりと表現していただきたいと思っております。

皆さんのご活躍を祈念しつつ、今日から始まる、まさにCommenceする人生に幸多かれと心から願って、私からのお祝いの言葉とさせていただきます。

2020年3月24日
学長 辰巳砂 昌弘