大阪府立大学

平成29年度入学式式辞

更新日:2017年4月6日

はじめに

このところの春の陽気に誘われて、大阪の桜が満開になっています。キャンパスの桜も皆さまをお待ちしていたかのように美しく咲いています。

入学試験に合格されて、ここ大阪国際会議場におられる皆さま、またご家族の皆さま、ようこそ大阪府立大学へ。

多くのご来賓をお迎えし、このように盛大な入学式を挙行できることをとても嬉しく思うとともに、大阪府立大学を代表しまして、皆さまを心より歓迎いたします。

「入学おめでとうございます」

この式辞のなかで、3つのお話をしたいと思います。一つ目は先日見た古い地図のこと、二つ目は昔私が学んだ経路探索という問題、三つ目は本学の理念「高度研究型大学 ―世界に翔く地域の信頼拠点―」についてです。それぞれ相互に関連していますので、最後にはそれらをつなぎます。

世界図・日本図屏風

本学のメインキャンパスがある堺は、摂津、河内、和泉の国境に位置する街として発展したと言われています。そのため、漢字では国境の「境」と表記されることがあるほか、地図に書くと左に海があるので「左海」などとも表記されたこともあるそうです。

堺で生まれた有名人に、千利休と与謝野晶子がいますが、博物館「利晶の杜」に行くと、千利休のおもてなし、与謝野晶子の創作の原点をさぐることができます。先日、海外からの来客をそこに案内していたところ、いびつな世界(アジア)地図が掲げられているのを見つけました。「千利休と堺のまち:堺の海外交流」と題された地図には、実際より大阪が大きく書かれていました。また、北海道は小さく、朝鮮半島が大きく、太平洋はほとんど書かれてなく、中国の沿岸部は詳しいというものでした。九州と沖縄の間にある島々は大きくて詳しく、東南アジアの島も散りばめて描かれているものでした。

私は、はじめ「昔の人は地図を書くのが下手だったのだな」と批判的な感想をもちましたが、ふと自分が当時に現在のような地図がないときに「地図を書きなさい」と言われたら「どうするのだろう。書けるのだろうか」と当惑を感じました。

みなさんはどう思いますか?今、ここで「大阪の地図を書いてください」と言われたら書くことができますか?地図を見ているから書けるかもしれませんが、たすけとなる地図がなかったとして「1年いや10年かけてもいいから書いてください」と言われたらどうしますか?「1,000万円いや1億円かけてもいいから書いてください」と言われたら書くことができますか?

例えば皆さんのご自宅のまわり2キロメートルぐらいなら歩き回って調べることもできますので書けるかもしれませんね。でも先ほどの利晶の杜で見たものは、いびつとはいえ、それなりにアジア、いや当時の人にとっては世界地図といえるものだったのです。

思考を巡らせているうちに「そもそもなぜ地図を作ったのだろう」と考え始めました。何故でしょう。皆さんはどう思いますか?何故地図が必要だったのでしょう。

伊能忠敬は地球の大きさを知りたいという動機で測量し、地図を作ったそうです。自分の領土を大きく見せ、ライバルの領土を小さく見せるための地図もあったようです。この場合、大小をデフォルメすることが重要だったと想像できます。敵陣の配置を分析するための地図もあったようです。

もちろん、山登り時に高低差がわかり迷わぬようにする登山図もあれば、船の運行時に座礁をしないよう航路を示す海図もあります。海岸を埋立地にするときには、どこをその候補とすればいいのかを検討するための地図もあるでしょう。レストランや博物館の道案内には目印が大切ですね。

ということは、地図には必ずしも精度を求める必要がなく、目的を先に考えることが大切だということがわかります。

経路探索問題

さて、皆さんは鉄道やバスの最適な乗り継ぎルートを検索するサービスやカーナビゲーションをご存知ですよね。最も安い値段で出発地から目的地に行く乗換方法を探したり、最短の時間で出発地から目的地に行くためのルートを探したりすることができますのでいろいろな場面で頻繁に使われています。ところで皆さんは、このような探索問題が全地球測位システムGPS(Global Positioning System)や電子地図が使えないずっと昔から研究されていたことをご存知でしたか。

この問題は1950年代に研究が進みました。1970年代、私が学生だった頃、その解き方の数学的な美しさにほれぼれとしたものです。多数の道や分岐点があったとしても、この理論とコンピュータを用いれば瞬時にして解けるのです。学生であった私にもそのような経路探索という“問題”があるということがわかりましたし、また答えを見つける“解法”も理解できました。

しかし、その当時は「この解法を学んで何の役に立つのか」と思っていました。毎日、何百万人、何千万人の方がこの解法を日常生活で使うとは夢にも思わなかったのです。教えてくださった先生も実用化されるとは全く思っておられなかったと思います。

私はこの最適経路探索から二つのことを学びました。

一つは、生まれた当初「とても役に立つとは思えなかった研究成果」や「利用が現実的でないと思い込んでいた技術」が、時を経て誰もが購入できるスマホの登場などの環境の変化や、最新の道路情報や時刻表が電子的に安価で手に入るなどの条件の成立により、途端に爆発的に利用され、多くの人の役に立ち喜びをもたらすことにつながる、ということです。「実生活では役に立たない」と思いこんでいた研究でも、実際の場面で使われて多くの人に恩恵を与えることができるということです。

さて、もう一つは、この目標に向かってルートを探すというプロセスにキャリア(人生)の作り方を示唆してくれる多くのヒントが隠されているということです。

当時、こんな議論をしていました。「現在の位置があって、目的地がある。世の中こんなもんだ」「その行き方には、安くいく方法もあれば、早く行く方法もある。例えば、新幹線で行けば早く行けるが、バスなら安く行ける。評価関数があれば、最適化できる。何を評価関数にするかによって答えは違う」というような話もあれば「目的地がはっきりしていなくても大体のところを目的地にして、後で行きたいところがはっきりしてきたら、目的地を指定しなおせばいいだけだ」「行こうと思っていた道が工事中で通行止めだったら、別の道で最適なものをみつければいい」という話もありました。自分が進む「道」をたくさん知っていることが大切ではないでしょうか。

高度研究型大学 ―世界に翔く地域の信頼拠点―

本学の理念は「高度研究型大学 ―世界に翔く地域の信頼拠点―」です。「多様」「融合」「国際」を大事な3つの視点としています。この理念を実現するために、教職員が学生、卒業生、そして本日来賓として会長をお招きしている後援会や校友会など本学にお力添えをいただいている多くの方々とともに日夜努力しています。私は「この理念について語ろう。理念実現のためにいま何をしているかを語ろう」と常に激励するようにしています。

本学は、地名的にも「翔く(はばたく)」というにふさわしい場所にあります。メインキャンパスは、南海高野線の「なかもず」と「白鷺」という鳥の名称が付いた駅の近くにあります。羽曳野という地名は、日本書紀によると日本武尊が亡くなって 白鳥として古市に飛来し、その後、羽を曳くように飛び去ったということに由来するそうです。りんくうキャンパスは、まさに「空の玄関口」にあります。その関空から、皆さんが海外へ、長期であれ短期であれ、一度は留学や海外研修に旅立ってほしい。大学はそのための支援制度を色々と用意しています。ぜひ活用し、世界を観てきてください。

ここで皆さまに本学を誇りに思っていただける嬉しいお知らせをしたいと思います。実は昨年度に本学は、大学改革支援・学位授与機構による認証評価を受けました。これは、学校教育法に基づいて7年ごとに受審が義務付けられた大学評価制度です。大学の成績表と言ってもいいかもしれません。そのなかの「研究」と「地域貢献」という両方の項目で、本学は「極めて良好である」という最高の評価を得たのです。

昨年度にこのような高い評価を受けたのは、全国の大学で本学だけです。過去にも複数の項目で最高の評価を得た大学はほとんどないと思います。世間にはいろいろなランキングがありますが、専門家による厳しい目での評価では、どこにも負けない「極めて良好」な大学であることを知っておいてください。

なお本学では、産業界のリーダーとなる博士人材育成をめざすための制度として、大学院生向けにリーディング大学院「システム発想型物質科学リーダー養成学位プログラム」、地域課題解決をめざす人材育成をめざし、学域生向けに副専攻「地域再生」を用意しています。ぜひ受講することを考えてください。

翔くための世界地図を描こう

それでは、これまで述べてきた3つの話「地図」「経路探索」「世界に翔く」をつなぎましょう。

皆さんは地図を持っていますか?自分の将来の方向を探るための地図を持っていますか?昔の堺の商人は、貿易のために地図を描いたのではないでしょうか。貿易の戦略を考えるために「あるところは詳しく、あるところは概要」と描いたのではないでしょうか。「次はどこに行って商売をしようか」「将来はどうしよう」と考えるために地図を描いたのではないでしょうか。地図はきっと他の人とも一緒になって作成し、他の人とも共有したと思います。

私は、皆さんが大阪府立大学にいる間に「自分の目的のために」教職員や先輩や友人と繋がり、学び、ともに考える中で、「自分で地図を描いてほしい」と思っています。いや、「地図を描く力を身に付けてほしい」と思います。最初は粗っぽくてもよいのです。身近なところだけでもよいのです。継続して地図を描きませんか。皆さんがよく知っている道路地図やルート地図ではなくて、自分の活動範囲を書き、自分のはばたこうとする方向は詳しく、その周辺は大雑把な、そういう独創的な地図を描いてみませんか。

それは簡単ではないかもしれません。お話ししている私にも「自分のための地図とは何か」がはっきりとはわかっていませんが、ある目的を持てた人は、気づいているかどうかは別にして人生の地図を持っているような気がします。人それぞれによって描く地図は違っていていいし、違うべきだと思います。

そして、地図の中で今の自分がいる場所をプロットしましょう。将来、自分が居たい場所もプロットしましょう。そして、その2つの点を結ぶ「翔く(はばたく)」方向に矢印を描きましょう。はばたく時にも道は必要です。現在地と目的地の間にはどのような道があるでしょうか。途中経路や分岐点はあるでしょうか。課外活動を含め、これからの学びとともにその地図を何度も何度も描き直しませんか。

先生や先輩から地図をもらい参考にすることができれば、そうするのがいいかもしれません。友人や後輩に見てもらえる地図が描ければ、見てもらうのもいいかもしれません。道がなければ自ら作り、渡るのが困難な川があれば橋を架け、超えるのが困難な山があれば、トンネルを通すルートを書き加えませんか。あなたが地図をつくり歩みだせば、後に来る人の手助けになるのは間違いありません。

まとめ

具体的な古い地図や経路探索問題から話しを始めたのですが、抽象的な話になったので、最後は少しわかりにくかったかもしれません。私の式辞をまとめようと思います。

間違いなく皆さんが私の年齢になるころには、今では想像もできない世界になっています。人工知能が、車の自動運転をしたり、サッカーのワールドカップでチャンピオンになったりしているかもしれません。今でも日本人の平均寿命は男女とも80歳以上で世界のトップレベルですが、皆さんの時代は平均寿命は90歳あるいは100歳を超え新たな問題に直面しているかもしれません。

ですので、在学中に一つの専門課程を専攻するだけでなく、副専攻を修了することも考えてください。幅広い教養をしっかり身に付けてください。さらに、教えられた知識を学生時代だけに学ぶのではなく、生涯にわたって探求心をもって学び続ける力をつけてください。

そして、常に自分の現在地と将来ありたいと願う目的地を考えるようにしてください。目的の場所にどういう経路を経て到達するかを考えるようにしてください。地図が必要な時には描いてください。描く力を身に付けてください。

大阪府立大学は、こういう学びをしたい皆さんを全力でサポートします。研究でも地域貢献でも専門家の評価で「極めて良好」な大学です。一緒に地図を創りましょう。将来の人がその地図を使えるように。

本日の話を思い出しながら、地図やカーナビゲーションシステムを改めて見ることが、皆さんの生き方を考える機会になれば望外の喜びです。

最後になりますが、ご家族の方にお願いとお報せです。私たちは、学生の海外派遣・留学支援、クラブなどの課外活動に対する支援策として「つばさ基金」を設立しています。ご協力を頂ければ幸いです。また、4月8日に花(さくら)まつり、5月には保護者の方のためのオープンキャンパスを企画しています。これらの機会に、学生で活気溢れるキャンパスをぜひ体験してみてください。お待ち申し上げます。

以上をもちまして、本日から始まる皆さんの新しい生活における飛躍を期待して式辞と致します。本日はおめでとうございました。

学長 辻󠄀 洋

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