大阪府立大学

総合リハビリテーション学類 作業療法学専攻が提唱するリハビリテーションに関する教育におけるニューノーマル―ウィズコロナの時代における新たなリハビリの形をめざして―

更新日:2020年7月16日

大阪府立大学 地域保健学域 総合リハビリテーション学類 作業療法学専攻は、COVID-19の拡大により、学生教育の要である臨床実習の中止という未曾有の事態に直面しています。この時代背景のもと、学生の学びを中断せず、優れた医療従事者を排出するために、ウィズコロナの時代におけるリハビリテーションの「教育」におけるオンライン環境を用いたニューノーマルに取り組んでいます。これらの取り組みを通して、「実習期間の不足による学生の教育効果の減衰の防止」をめざします。

取り組み概要

オンラインを活用した学生による模擬臨床実習

面接場面の画像

当事者と学生の実際の面接場面(学生4名と当事者様:右上、教員:左下 )

従来、本学の作業療法学専攻の4年次のカリキュラムでは18週間の臨床実習が設定されています。臨床実習は、多様化する社会的ニーズに対応できる療法士を育成するために、3年次までに学内における座学と演習で得た専門知識を統合し、臨床場面で発揮するための重要な役割があります。この臨床実習が、COVID-19の感染拡大により、中止および期間短縮となったことを受け、学内における代替え実習により、できるだけ実際の臨床場面に近い環境を学生に模擬的に経験してもらうために、オンライン環境を活用した模擬実習を実施しました。

本実習の実施期間 

2020年5月11日~2020年6月17日

(注意)本実習期間中のオンライン面接実習は実施期間は終了しましたが、再現し、当時の様子を取材いただくことが可能です。

模擬実習の具体的な内容

(1)回復期リハビリテーション病院に入院している患者様の動画や模擬カルテを用い、その内容に基づき学生が作業療法評価および治療プログラム案を立案

本来ならば、実際の臨床場面で患者様と触れ合い、身体状況を評価し、適切な治療プログラムを提供するための実習を、本学では学部3年次から4年次の教育で行います。しかし、今回は臨床実習を行う予定であった病院の許諾の元、臨床の作業療法士に作成いただいた、実際の患者様の動画および模擬カルテ資料を利用し、模擬実習を行いました。内容としては、作成いただいた資料を基に、学生がオンライン環境を用いたグループワーク(教員とのディスカッションも含む)を通して、模擬的に作業療法評価および治療プログラム案を作成しました。

さらに、学生が作成した治療プログラム案について、妥当性を確認するためにゲストスピーカーとして迎えた実際の当該患者様の担当作業療法士に対し、学生がオンライン環境下で発表を行いました。その中で、担当作業療法士から学生に対して、実際の臨床場面で行われた治療プログラムを踏まえたフィードバックと議論が展開されました。これにより、学生がグループワークにて能動的に学んだ知識や技術を、臨床で活用できる形として定着させることができました。

(注意)現在入院中で本学の教育方針に賛同された患者様から書面にて同意を得た上で、病院内での作業療法・日常生活場面の動画、およびカルテ情報を提供いただきました。(個人情報の漏洩を防ぐため全ての情報に匿名化加工を実施しました)

(2)オンライン環境下での当事者(ゲストスピーカー)との面接実習の実施

すでに病院を退院した後に地域生活を行なっており、本学の教育方針に賛同した脳卒中後の当事者様にゲストスピーカーとして参画いただき、実際の作業療法場面でも行われる初回面接をオンライン上で模擬的に実習しました。リハビリテーションとは、当事者様の全人的復権を目的としており、その人が送りたい豊かな生活に回帰することが目的となります。従って、当事者様の現状や叶えたい目標を作業療法士が理解することが必須になります。

実際の臨床場面では、作業療法を行う前に、作業療法士が当事者様に必ず初回面接を行います。面接にて、作業療法士は当事者様とコミュニケーションをとる中で、様々な情報を傾聴し、その情報を基に適切な目標を共に考え、共有することが重要となります。この目標設定が失敗すれば、正常な作業療法の履行は期待できません。今回のオンライン環境を用いた取り組みでも、実際に学生が当事者様の生活状況の聴取から、現在の困り事、実現したい生活を聴取する体験を積む事ができました。    

本取り組みの成果

  • オンライン環境下で、患者様の動画および模擬カルテから実際の担当作業療法士が行なっていた治療プログラムと近い取り組みを学生が考案することができました。この点においては、実際の臨床場面で実施していた従来の臨床実習に近い効果が得られ、COVID-19により中止となった実習を補填する成果をあげることができました。
  • 当事者様へのオンライン面接実習では「現在の困り事や必要なこと、期待すること」などを学生が実際に聴取でき、適切な目標設定が十分可能でした
  • 今回の実習終了後、当事者様から「実際に会って話すよりも話しやすく、たくさん話してしまった」といったコメントを認めた。また、学生からも「去年に行った実際の臨床場面でのコミュニケーションよりも平常心で臨めた」といったオンライン実習特有の効能を示唆するコメントが認められた
  • 作業療法教育において、障害を有した当事者様にしかできない講師としての「社会的役割」をオンライン環境を用いて、移動の負担等をかける事なく創出できました
  • オンライン面接実習後、当事者様からは「今受けているリハビリテーションの中では気付くことができていなかった自分も解っていなかった目標に気づくことができた」、学生からは「緊張したが、当事者様とコミュニケーションをとる事でしかわからない事が多くあり勉強になった」とのコメントがありました
  • COVID-19に関連し、厚生労働省によるオンライン診療に関する大幅な環境整備が進んでおり、学生教育からオンラインによる対話を経験できる貴重な機会を創出する事ができました

担当教員コメント

総合リハビリテーション学研究科 教授 竹林 崇

総合リハビリテーション学研究科 教授 竹林 崇の写真作業療法士教育において、COVID-19の影響は計り知れません。ただし、今後のリハビリテーションの質を担保していくためにも、学生教育が停滞するのは大きな問題があります。COVID-19によって学びを止めないためにも、今後のウィズコロナの時代を見据えて、いち早く、実際の実習環境に可能な限り近い、オンラインの模擬実習システムの構築を目指しました。実施すると、学生にとっての学習効率は、従来型の実習に近いように感じます。また、厚生労働省の方針でも、オンライン診療を今後重要視する趣があります。今後の新しい時代を見据えた学生教育にオンラインを用いた意味のある教育を積極的に導入していく必要性を考えます。

加えて、COVID-19の影響で、感染予防の観点から人同士の接触機会を減らすために、療法士と患者様の1対1の対面でのリハビリテーションの機会が必要最小限に制限されています。リハビリテーションの機会の減少は、患者様の予後にも深刻なマイナスの影響を与えると考えられています。そこで、これらの感染に関する問題を解決するために2008年より企業と共同開発している、良好なリハビリテーション効果を生み出すロボット「ReoGo-J (注釈)」を用いた自主練習システム(保険診療対象)による「安全なリハビリテーションの機会創造・提供の試み」を行なっています。この試みでは、臨床研究にて効果が証明されたロボットを使い、COVID-19の感染拡大の原因となる人同士の接触量を減らし、効果的なリハビリテーションの機会の創造・提供することを目的としています。(伊丹恒生脳神経外科病院にて随時実施中、患者様への取材も含め可能です)

自主練習システム風景の写真

ReoGo-J(注釈)による自主練習システム

ウィズコロナの時代には、オンライン面接をはじめとしたこれらの最先端のテクノロジーを取り入れ、感染予防を念頭に入れた対応が必要になります。リハビリテーションにおいては、疾患発症から約6ヶ月間の治療内容が、障害の回復に重要であると言われています。COVID-19の感染が広がる現在も、患者様のより良い回復を目指したリハビリテーションの提供が求められています。可及的早急に新しい時代のリハビリテーションにおけるニューノーマルを構築する必要があると考えます。

(注釈)ReoGo-Jは帝人ファーマ株式会社の登録商標です。

大阪府立大学 総合リハビリテーション学類 作業療法学専攻について

作業療法士は、乳幼児から高齢者までの身体や精神に障害のある方々が、その人らしく生きてゆけるよう、日常生活能力や社会適応能力の維持・改善、さらには生活環境の調整や学校・職場環境の調整、患者・家族教育など多面的な取り組みを行います。

作業療法学専攻では、少人数制を活かした演習・実習を豊富に取り入れた授業カリキュラムを編成しています。また、作業療法の知識・技術だけでなく、研究能力も備えた作業療法士の育成をめざしています。臨床実習は近畿圏内の施設の協力を得て実施しています。病院などの医療機関だけでなく、老人保健施設や就労支援事業所、特別支援学校など幅広い領域の実習を実施しています。

お問い合わせ

大阪府立大学大学院 総合リハビリテーション学研究科

教授 竹林 崇

Tel 072-950-2111 Eメール takshi77[at]rehab.osakafu-u.ac.jp[at]の部分を@と変えてください。