公立大学法人大阪府立大学

磁区構造を可視化する新しい電子顕微鏡法―ホロコーン照明を用いた第3のローレンツ顕微鏡法の開発に成功―

更新日:2019年3月14日

理化学研究所(以下、理研)創発物性科学研究センター創発現象観測技術研究チームの原田 研 上級研究員、大阪府立大学大学院 工学研究科の森 茂生 教授らの共同研究チームは、磁性材料中の磁区と磁壁(解説1)を同時に、かつ焦点の合った高い空間分解能で観察できる新しいローレンツ電子顕微鏡法(解説2)を開発しました。

本研究成果は、磁性材料の持つ磁化情報を余すところなく観察可能にするもので、今後、磁性体試料や磁性素子などの開発に貢献すると期待できます。

従来、磁性体試料中のナノスケール(1ナノは10億分の1メートル)の磁区構造を観察するには、ローレンツ顕微鏡法が用いられてきました。ローレンツ顕微鏡法には、焦点を外して磁壁を観察する「フレネル法(解説3)」と、磁化により進行方向に変化(偏向)を受けた電子線を選別して磁区を観察する「フーコー法(解説4)」があります。しかし、フレネル法では空間分解能が劣る、フーコー法では全方位の磁化情報を得られないといった欠点があります。

今回、共同研究チームは透過電子顕微鏡を用いて、磁性体試料に「ホロコーン照明(解説5)」を行うとともに、フーコー法による磁区観察技術を合わせて、焦点が合った状態で、光軸を中心に試料からの全方位にわたる磁化情報を結像できる「ホロコーン・フーコー法」を開発しました。この手法により、磁区と磁壁を同時に、かつ焦点のあった高い分解能で観察することに成功しました。

本研究成果は、応用物理学会の速報雑誌「Applied Physics Express」のアクセプト版(2月7日付)、オンライン版(3月13日付)に掲載されました。

論文タイトル「Hollow-cone Foucault imaging method」

Applied Physics Express(「IOP science」 Webサイト)

プレスリリース全文(707KB)

ホロコーン・フーコー像の図

図 FeGa単結晶のホロコーン・フーコー像

用語解説

解説1 磁区と磁壁

磁石などの強磁性体では、磁気モーメントが平行に並んでいる領域を「磁区」と呼び、磁区と磁区との境界を「磁壁」と呼ぶ。磁区の大きさや形状、磁壁の状態は磁性体や磁性体素子の磁場性能を決めるため、個々の磁区や磁壁の直接観察は重要である。

解説2 ローレンツ電子顕微鏡法

磁性体試料中を透過する電子線の進行方向が、試料の磁化からのローレンツ力を受けて偏向される様子を観察する電子顕微鏡技術。磁性体試料中の磁化分布、すなわち磁壁や磁区を観察することができる。電子線が受ける磁気偏向角度は0.1mrad(ミリラジアン≒0.01°)程度で、電子線が試料の結晶構造から受けるブラッグ回折角(10mrad≒1°)と比べて2桁ほど小さい。磁化分布を観察するためには試料直近の電磁レンズ(対物レンズ)はオフにしなければならず、ローレンツ電子顕微鏡では、上記小さな偏向角度を電磁レンズオフの状態で検出して像とするためにいろいろな工夫が施されている。

解説3 フレネル法

電子顕微鏡像の焦点を外して、磁性体試料中の磁壁を観察する手法。電子顕微鏡のレンズの焦点を外すだけで実施できること、焦点を大きく外すほど弱い磁区の作る磁壁を観察できることから、ローレンツ顕微鏡法ではフレネル法が広く用いられている。実験的には焦点を外すだけの簡単な方法であるが、焦点外れ像の分解能は高くできないという欠点もある。

解説4 フーコー法

磁性体試料中の磁区で、ある方向・方位に偏向を受けた電子線のみを、後段の絞り孔により選択して、磁区構造を観察する手法。電子線を同じ方向・方位に偏向する磁区だけが明るく観察される。試料後段の適切な位置(回折空間)に絞りを必要とするため、電子顕微鏡の光学系構築や調整は難しくなる。そのため、広く普及するには至っていない。

解説5 ホロコーン照明

環状傾斜照明、あるいは中空円錐照明とも呼ばれる。試料に対して全方位角にわたって、光軸に対して実施する傾斜照明のこと。光学顕微鏡では、大きな照射角が得られるように工夫したコンデンサレンズに環状輪帯絞りを用いて、斜め角度の照射が行われる。一方、電子顕微鏡では環状輪帯絞りの実現が難しいため、多くの場合、照射光学系の偏向器を利用して、光軸に対する周回偏向照明が行われる。

研究助成資金等

本研究は、日本学術振興会(JSPS)科研費基盤研究(B)「単一電子による電子波干渉の遡及計測(研究代表者 原田 研)」による支援を受けて行われました。

お問合せ先

大阪府立大学大学院 工学研究科 物質・化学系マテリアル専攻 教授 森 茂生

Tel 072-254-9318 Fax 072-254-9318Eメール mori[at]mtr.osakafu-u.ac.jp [at]の部分を@と差し替えてください。

理化学研究所 創発物性科学研究センター 創発現象観測技術研究チーム 上級研究員 原田 研

Tel 049-296-7240 Fax 049-296-7247Eメール kharada[at]riken.jp [at]の部分を@と差し替えてください。