大阪府立大学

全固体リチウム電池実現に向けた熱安定性評価技術を開発―全固体電極材料の発熱メカニズム解明に一歩前進―

更新日:2018年4月18日

公立大学法人大阪府立大学(理事長 辻 洋)の塚崎 裕文 特任助教、森 茂生 教授、林 晃敏 教授、辰巳砂 昌弘 教授と、国立研究開発法人物質・材料研究機構(理事長 橋本 和仁)の田中 喜典 特別研究員、大野 隆央 特命研究員らはJST(理事長 濵口 道成)戦略的創造研究推進事業 先端的低炭素化技術開発・特別重点技術領域「次世代蓄電池」(ALCA-SPRING)の一環として、近年全固体リチウム電池への応用が期待されている全固体電極材料の熱安定性評価技術を開発し、その発熱反応のメカニズム解明に一歩前進しました。

研究成果のポイント

充電後NMC-LPS正極複合体中で生じるLPSの分解反応
  1. 全固体リチウム電池用正極複合体が示す発熱反応の主たる要因は、無機固体電解質の結晶化であることを透過型電子顕微鏡による加熱その場観察(解説1)によって初めて明らかにしました。
  2. 正極複合体の発熱反応には、活物質との界面接触に起因する無機固体電解質の分解反応が関与していることが分かりました。
  3. 本研究成果は、次世代全固体リチウム電池の実用化に大きく貢献します。

概要

現在、リチウムイオン二次電池は、大型化や高エネルギー密度化によって、電気自動車等の車載用電源や家庭用大型蓄電池としての応用が期待されています。実用化には、電池の発熱や発火等を抑え、安全性を確保することが必須です。また、発熱は電池の寿命を劣化させる要因にもなります。従って、電池材料の発熱挙動の評価や電池材料が示す発熱反応の要因を解明することが非常に重要です。

本研究では、硫化物系無機固体電解質Li2S-P2S5と正極活物質LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2からなる正極複合体に着目し、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた加熱その場観察によって、本材料の熱的安定性について調べました。さらに、得られたTEM観察結果と第一原理計算(解説2)を元に、起こりうる化学反応、ならびにこの正極複合体が示す発熱反応の起源について検討しました

本研究成果は「Scientific Reports」誌にて、日本時間2018年4月18日に公開されました。

論文タイトル「Crystallization behavior of the Li2S–P2S5 glass electrolyte in the LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2 positive electrode layer (全固体系LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2正極複合体におけるLi2S–P2S5系ガラス電解質の結晶化挙動)」

用語解説

解説1 加熱その場観察

その場観察とは、TEM鏡体内で試料の微細構造、ならびに相変化や結晶化挙動の過程をリアルタイムで直接観察することを言います。本研究で用いた加熱TEMホルダーには、不活性ガス雰囲気を保持するだけでなく、温度をリアルタイムに制御できる機能があります。これにより、加熱時における電極複合体の構造変化を直接観察することが可能です。

解説2 第一原理計算

第一原理計算とは、量子力学に基づいて、物質の電子状態やエネルギーを経験的なパラメータを用いずに計算する手法です。電子状態の変化を考慮するので、原子間の結合の組み替えが起こる化学反応を高精度に解析することができます。

お問合せ先

公立大学法人 大阪府立大学大学院 工学研究科 物質・化学系専攻 マテリアル工学分野

特任助教 塚崎 裕文(つかさき ひろふみ)

Tel 072-252-1161 Eメール h-tsukasaki57[at]mtr.osakafu-u.ac.jp [at]の部分を@と差し替えてください。

教授 森 茂生(もり しげお)

Tel 072-254-9318 Eメール mori[at]mtr.osakafu-u.ac.jp [at]の部分を@と差し替えてください。