公立大学法人大阪府立大学

有機分子により五角形から成る量子磁気ネットワークを実現

更新日:2015年10月30日

有機分子により五角形から成る量子磁気ネットワークを実現
―物性科学の未踏領域を開拓―

研究成果のポイント

  • 有機化合物の設計性を効果的に取り込んだ有機磁性体α-2,6-Cl2-Vによって、五角形が頂点を共有して拡がる新しい磁気ネットワーク(解説1)を実現した。
  • 五角形のフラストレーション(解説2)がもたらす量子状態を実現し、物性科学の未踏領域を開拓。
  • 有機化合物による多彩な磁性体のデザインが可能であることを実証し、量子物性を取り込んだ磁性材料開発への道を拓いた。

公立大学法人大阪府立大学 大学院理学系研究科の山口博則准教授、小野俊雄准教授、細越裕子教授、東京大学物性研究所の大久保毅特任研究員、橘高俊一郎助教、榊原俊郎教授、防衛大学校の荒木幸治助教らの研究グループは、有機化合物の設計性を利用して新しいタイプの有機磁性体を合成し、五角形から成る量子的な磁気ネットワークを実現しました。本研究成果は、オープンアクセス電子ジャーナル「Scientific Reports」に掲載(2015年10月16日)されました。

奇数角形の網の目から成るフラストレーション系の磁気ネットワークは、スピンの量子性を反映した新しい磁気状態を示します。これまでに最も単純な三角形の網目を持つ場合について非常に多くの研究が行われてきました。その一方で、次の奇数角形である五角形の網目を持つ場合は物性科学の未踏領域でした。そこで本研究グループは、有機化合物が設計性と多様性に富むことを利用して、磁性体のデザインを試みました。

具体的には、安定有機ラジカルの一種であるフェルダジルラジカルを基本骨格として、α-2,6-Cl2-V [=3-(2,6-dichlorophenyl)-1,5-diphenylverdazyl]を設計し、合成しました(図1参照)。2か所の水素原子を塩素原子に置き換えることで、π共役平面のねじれた分子骨格を実現しています。α相結晶においては、ねじれた五角形が頂点を共有して三次元的に拡がる新しい磁気ネットワークが実現されていることが明らかになりました。そしてこの物質の磁気特性を調べると、磁化の量子化を含む特異な量子物性が観測されました。本研究成果は、量子磁性体(解説3)の研究に五角形のフラストレーションという新たな方向性を提唱し、新しい量子現象の解明をもたらすと期待されます。また、有機化合物による磁性体のデザインが可能であることが実証され、量子物性を取り込んだ磁性材料の開発につながるものと期待されます。それにより、ナノテクノロジーを駆使した革新的な材料開発が実現できます。

「有機分子により五角形から成る量子磁気ネットワークを実現」詳細(444KB)

研究論文名:Experimental realization of a Quantum pentagonal lattice (量子五角形格子の実験的な実現)

掲載論文(Scientific Reports Webサイト)

解説図

解説図1

解説図2

用語解説

解説1 磁気ネットワーク

磁性体中では、電子の自転運動に対応する物理量であるスピンが、小さな磁石のような振る舞いをして磁気を担っている。スピン同士は交換相互作用と呼ばれる相互作用によってつながれており、スピンの場所を頂点、相互作用を辺として形作られる点と辺の集合を磁気ネットワークという。この磁気ネットワークは磁性体の性質を決める重要な要因となっている。

解説2 フラストレーション

磁気を担うスピンは、スピン間に働く交換相互作用によって、磁気ネットワーク上で互いに平行あるいは反平行に向きをそろえようとする。スピンの幾何学的配置や交換相互作用の競合によって、どのようなスピン配列にしても全ての相互作用を完全に満足できなくなる状況を物理学上ではフラストレーションという。幾何学的なフラストレーションを引き起こす最小の単位が三角形で、その次に小さいものが五角形である。

解説3 量子磁性体

磁性体を構成する小さな磁石とされるスピンは、本来は量子力学的な量であり、厳密には磁石のように単純なモデルでは説明できない。スピンのサイズがより小さく、隣接するスピンの数がより少ないほど、量子力学的な本性が顕著に現れる。スピンの量子性によって量子的な物性を示す磁性体は量子磁性体と呼ばれる。有機ラジカルは、スピンのサイズが最小値の1/2であるため、量子磁性体の形成に適している。

お問い合わせ

大阪府立大学大学院 理学系研究科

担当 山口 博則 准教授

Tel 072-254-9651 Eメール yamaguchi[at]p.s.osakafu-u.ac.jp[at]の部分を@と変えてください。