公立大学法人大阪府立大学

先天性ミエリン形成不全の新たな原因遺伝子を発見!

更新日:2014年5月29日

突然変異ラットの解析から、「Dopey1遺伝子」がミエリン形成細胞のタンパク輸送に
重要であることがわかりました。

大阪府立大学生命科学研究科 獣医学専攻 桑村 充 准教授らの研究グループは、脳の神経線維の絶縁体として働くミエリン(髄鞘)が生まれつき形成不全となる突然変異ラットの解析から、新しいミエリン形成不全症の原因遺伝子「Dopey1」の存在を突き止めました。

これまで哺乳動物におけるDopey1遺伝子の役割は全く知られておらず、今回の研究によってDopey1 がミエリン形成細胞のタンパク質輸送に重要であるという、新たなミエリン形成メカニズムを提示しました。

ミエリンの形成、維持、再生の研究を通じて、多発性硬化症などヒトや動物におけるミエリン疾患に対する新たな治療法の開発に繋がることが期待されます。

なお、この研究成果は、国際科学誌「Glia」に掲載されることになりました。

(掲載日に関しては調整中につき、未定です)

表記注釈 「Dopey1」の表記について

名称「Dopey1」について、遺伝子名を示す場合と、タンパク質を示す場合の2通りがあります。その事を踏まえ、

  • 遺伝子名=小文字+斜体「Dopey1」
  • タンパク質=大文字+正体「DOPEY1」

と表記して区別しております。

研究概要

ミエリン(髄鞘)は、神経細胞の軸索を取り巻いて絶縁体として働き、神経系の情報伝達の速度と正確な伝達に非常に重要な組織です。ミエリン形成不全は、生まれつきミエリンの形成が不十分となる病気で、振戦や歩行異常などの臨床症状を示します。多くのミエリン形成不全症の原因は不明で、根本的な治療法を開発されていません。

研究グループは、生まれつきミエリン形成不全症となるVF(vacuole formation)ラットの解析から、ミエリン形成に重要な原因遺伝子Dopey1 を突き止めました。中枢神経系のミエリンはオリゴデンドロサイトによって形成されますが、ミエリンを構成する幾つかのタンパク質は、細胞体で産生された後に神経細胞の軸索を取り巻くように伸びた末端部のミエリンまで輸送されます。原因遺伝子のDOPEY1タンパク質は、非発症の対照ラットのオリゴデンドロサイトおよび神経細胞に発現し、細胞体内ではタンパク質の合成と輸送に関わるゴルジ装置とエンドソームに局在していることが示されましたが、ホモ型の発症ラットではDOPEY1の発現は見られませんでした。さらに、ホモ型の発症ラットでは、ミエリン構成タンパク質のうち、PLP(proteolipid protin)とMAG(myelin associated glycoprotein)がほとんど末端部のミエリンに分布せず、オリゴデンドロサイトの細胞体、特にゴルジ装置に異常蓄積していることを明らかにしました(図1)。以上の結果から、VFラットの原因遺伝子Dopey1 は、ミエリン形成における物質輸送に重要であることが示されました。

Dopey1 遺伝子はこれまで、哺乳動物での役割は全く知られておらず、今回の研究で初めてミエリン形成のタンパク質輸送に関与することが示されました。

ミエリン低形成とは

ミエリン(髄鞘)は、グリア細胞(中枢神経ではオリゴデンドロサイト、末梢神経ではシュワン細胞)が神経細胞の軸索を取り巻いて形成されます(図2)。情報は神経細胞の軸索を通って伝達されますが、ミエリンは電線の絶縁体として働いており、ミエリンがうまく形成されないと混線が起こり神経の情報伝達がうまくいきません。

ヒトでは、先天性ミエリン形成不全症が報告されており、多様な疾患が含まれます。その多くは遺伝性疾患ですが原因遺伝子が不明な病気も多く残されており、根本的な治療法も確立されていません。また、後天的にミエリンが崩壊する脱髄性疾患としてヒトの多発性硬化症が知られており、我が国では特定疾患に指定されています。これらのミエリン疾患の解明には、ミエリンの形成、維持、再生のメカニズムを解明することが必要です。

生まれつきミエリン形成不全となるVFラット

VFラットは、振戦を主症状とし、生後4~8 週齢をピークとしてその後は軽減するというユニークな発症パターンを特徴とします。ホモ型の発症ラットの中枢神経系では、軸索を取り巻くミエリンの厚さが非発症の対照ラットに比べて薄く、VFラットはミエリン形成不全のモデル動物であることが示唆されました(図3)。また、振戦症状がみられるラットでは、軸索とミエリンの間に空胞が形成されていることも明らかとなっています。

図3 対照ラットの脊髄(A)とVFラットの脊髄(B)、VFラットのミエリンは対照ラットに比べて薄く、空胞が形成されている。

図3 対照ラットの脊髄(A)とVFラットの脊髄(B)
VFラットのミエリンは対照ラットに比べて薄く、空胞が形成されている。

ファンド等

本研究は、科学研究費基盤研究および株式会社ケー・エー・シー創立35周年記念研究助成を受けて行われました。

また、本研究で用いたVFラットは、ナショナルバイオリソースプロジェクト「ラット」より提供を受けました。

お問い合わせ

公立大学法人 大阪府立大学 生命環境科学研究科 獣医学専攻

担当 桑村 充 准教授

Tel 072-463-5342 Tel 072-252-1161(代表) Tel 2437(内線)