公立大学法人大阪府立大学

ナノの光源で透明な物質に光を吸収させることに成功

更新日:2013年5月27日

ナノの光源で透明な物質に光を吸収させることに成功
~光エネルギー変換や光触媒技術への応用に期待~

研究成果のポイント

研究成果の概要

 北海道大学大学院理学研究院の村越敬教授(実験担当)と大阪府立大学大学院工学研究科の石原一教授(理論担当)らのグループは、ナノの光源を使って、本来光が透過してしまう透明な物質に光を吸収させることに成功しました。このことは、これまで光エネルギーの利用には使えなかった物質が活用できるようになることを意味しており、光触媒や太陽電池などの光エネルギー変換技術の革新に繋がる可能性があります。
 物質は外界からエネルギーを得て様々な状態に変化しますが、光エネルギーの吸収により生成できる状態はごく一部であり、他のほとんどの状態は光では生成できません。ナノメートル(10億分の1メートル)程度まで閉じ込めた光で、分子やナノ物質の一部分のみを不均一に照らすことできれば、光吸収で新たに多くの状態が生成可能になることが理論グループにより予測されていましたが、実験上の困難のためこれまで成功例はありませんでした。
 今回、研究グループは金のナノ微粒子の表面に閉じ込めた光を、特定の条件で単層カーボンナノチューブと相互作用させることにより、本来吸収されないエネルギーの光が吸収されることを実験的に明らかにしました。さらに独自の計算手法で、これが上記機構によるものであることを確認しました。この結果は光吸収に対する考え方を根底から変え、光化学(触媒)反応や、光エネルギー変換などの、光技術利用可能な現象を大きく多様化させる新たな基本原理を与えたことになります。

論文発表の概要

研究論文名:Selection-Rule Breakdown at Plasmon-Induced Electronic Excitation of an Isolated Single-Walled Carbon Nanotube(局在光励起によって可能となる単層ナノチューブの電子励起選択則の破綻)
著者:高瀬舞*、安食博志**、水本義彦***、米田啓一郎*、奈良正伸*、並河英紀*、保田諭*、石原一***、村越敬*(*北海道大学大学院理学研究院、**大阪大学光科学センター、***大阪府立大学大学院工学研究科)
公表雑誌:Nature Photonics(英国の科学論文雑誌)
公表日:日本時間(現地時間)2013年5月27日(月)午前2時(英国時間2013年5月26日午後6時)

1.研究概要

背景

物質は外界からエネルギーを得て高いエネルギー状態に変化します。光からエネルギーを得る場合は、物質の中の電子が高いエネルギーを得た状態となり、これが光の吸収として観測されます。光を吸収して生成可能なエネルギーの状態はごく一部に限られており、どの状態でも光エネルギーで生成できるわけではありません。これは、固体物理、有機光化学、量子光学などの様々な分野の教科書で「光学選択則(解説3)」として説明される物質の基本的性質で、どのようなエネルギーの光を吸収するかは、通常、物質の種類により決まっています。
 しかしこの選択則は、分子よりずっと波長の長い光が分子全体を均等に照らすことが前提になっており、もし光をナノ程度の狭い空間に閉じ込め、分子の一部を照らすことができれば「光学選択則」は破られると考えられます。当グループでも特殊な金属構造で光を閉じ込めナノ光源を実現すれば、1分子程度の物質でも「光学選択則」が破られることを理論予測していました。しかし、実験系の構築は困難であり、最近も著名誌の科学記事で今後の大きな挑戦的課題としてこの問題が取り上げられています。この問題が解決され、物質の多様な状態を光エネルギーの吸収により生成することが可能になれば、光エネルギー変換技術の革新に近づくと言えます。

研究手法

 本研究では、間隔がナノメートルサイズで制御された2個の金ナノ微粒子の対をガラス基板上に構築し、単一かつ単層のカーボンナノチューブをその対の間隙に配置して近赤外光(解説4)を照射しました(図1)。その結果、特定の配置を有するナノチューブのみからラマン散乱光(解説5)が観測されることがわかりました。また、ナノチューブの構造や光の波長、金ナノ微粒子対の間隙における配置方位を正確に取り扱うため新たに開発した理論計算手法を用いて、ナノの光源の光がナノチューブに吸収される様子を解析し、ラマン散乱光がどのような条件で強く観測できるかを明らかにしました。

2.研究成果

  単層カーボンナノチューブはその構造によってどのようなエネルギーの光を吸収するかの「光学選択則」が厳密に決まっており、今回観測に使用したナノチューブは、実験に用いた近赤外光を通常全く吸収しないことがわかっています。また、ラマン散乱光は物質が光を吸収すると強く観測されます。今回、単層ナノチューブ1本のラマン信号を検知し、金属ナノ微粒子対とナノチューブの配置関係を明らかにできるグループ独自の実験技術を用いました。その結果、粒子対とナノチューブの配置が特定の関係になったとき、「光学選択則」では吸収されないはずの光をカーボンナノチューブが吸収していることを実験で初めて明らかにしました。また、光と物質のミクロな空間構造を取り入れて光学現象を正確に計算できる独自の理論手法で解析した結果、今回の実験では微粒子対の間隙で光が「局在プラズモン」となり、直径約1ナノメートルの単層カーボンナノチューブのごく一部を照らしたために「光学選択則」が破れ、通常は起こらない光吸収が起こったことを証明しました(図2)
 なお、本研究は、単一分子の配向まで決定できる手法を世界に先駆けて確立した実験グループ(高瀬舞博士[現・北海道大学助教]らと並河英紀助教[現・山形大学准教授]、保田諭講師[北海道大学])と、先端的な微視的光学応答解析技術を有する研究者(水本義彦博士 大阪府立大学博士研究員)やカーボンナノチューブ研究の第一人者(安食博志 大阪大学特任教授)を擁する理論グループとが共同で進めたものです。

3.今後への期待

 近年、太陽光によって発電する太陽電池や、太陽光エネルギーを燃料電池などの化学燃料合成に用いる光触媒などの高機能化に期待が集まっています。いずれの技術もこれまで光を吸収した後のプロセスについての高効率化が進められてきましたが、その前段階の光吸収のプロセスを根底から変えることができれば、光エネルギーの有効利用を飛躍的に促進することが可能になります。本研究は、同じ物質でもその光吸収特性における従来の理論的制限を超えることができる可能性を示しており、光触媒や太陽電池などの光エネルギー変換技術の革新に繋がる可能性があります。

4.研究助成資金等

 本研究は、文部科学省科学研究費補助金特定領域研究「光—分子強結合反応場の創成」(領域代表:三澤弘明 北海道大学電子科学研究所教授)における「金属ナノギャップにおける少数分子の光応答その場追跡」(研究代表者:村越敬 北海道大学大学院理学研究院教授)及び「局在電磁場と分子系の空間的インタープレイによる光反応制御の理論」(研究代表者:石原一 大阪府立大学大学院工学研究科教授)、その他の支援を受けて行われました。

参考図

図1

図1

 金属ナノ微粒子の対構造に担持された単層カーボンナノチューブの概念図(左図)。対構造の間隙(幅< 2 nm)に直径1nm前後の単層カーボンナノチューブが挟まれている。
 観測されたラマン散乱光のスペクトル(右図)。上段は、通常観測されるナノチューブのスペクトル。下段は、本来光吸収が起こらず観測できないナノチューブが初めて明瞭に観測された例。

図2

図2

 近赤外光(波長785nm)を金属ナノ微粒子の対構造に担持された単層カーボンナノチューブに照射した際の概念図(左図)。照射光の偏光方位を図にあるように θ = 0°とした場合に、その間隙に挟まれたナノチューブの直径より小さい空間に光強度(右計算図のカラーで表現)のナノ空間勾配が形成され、ナノチューブのごく一部を照らすことで特徴的な光励起が起こることが理論で証明された。

参考

 金属ナノ微粒子の対構造の間隙において、局在プラズモンによるナノ光源で一部分だけを照らされるカーボンナノチューブのイメージ図(図2左をデザインした図)。

参考

用語解説

解説1:局在プラズモン

 直径数十nm程度の金、銀、銅などの金属微粒子は、人間の目に見える光を当てると、その光のエネルギーが微粒子に吸収され微粒子内の電子を集団的に振動させることが知られている。この電子振動のことを局在プラズモンと呼ぶ。このとき光のエネルギーは微粒子表面や微粒子の対構造ではその間隙に閉じ込められることになる。

解説2:単層カーボンナノチューブ

 炭素原子が6個結合した六角形を基本構造として、その構造が他の六角形と結合して炭素1原子層の厚さのシートとなり、それが円筒状となった物質が単層カーボンナノチューブである。円筒の太さはナノメートル(nm: 1nmは10億分の1m)程度。通常、異なる太さの円筒が層状になることが多いが、今回は単層のカーボンナノチューブを用いた。その太さや円筒構造中の六角形の配列に依存して、ナノチューブ1本1本の色や電子伝導性が変化することが知られている。微細電子回路や触媒、センサー、太陽電池など多方面への応用が期待され、その特性が精力的に研究されている。

解説3:光学選択則

 今回見い出された現象では、光は分子中の電子エネルギーとして吸収されている。電子はミクロな世界では波として振る舞うことが知られているが、エネルギーを得る前の波形の対称性と、高いエネルギーの時の波形の対称性が一定の関係を満たす時にのみ、光吸収が起こり、これを光学選択則と呼ぶ。通常、波の形が原点から見て対称な形から反対称な形に(或いはその逆に)変化する場合にのみ、この光吸収が起こる。この法則では光の波としての振幅が分子中で変化しないことが前提であるが、1nm程度の分子に対して光は数百nmの長い波長を持つので、通常この条件は満たされる。しかし、今回の実験では光が1nm程度に局在したため、この条件が破られた。

解説4:近赤外光

 光は波の性質を持ち、その波長によってエネルギーが変化する。人間の目に見える光は、エネルギーの高い波長400 nm (濃紺)から エネルギーが低い800 nm(暗い赤)ぐらいであるが、その中でも 750 nmより長い波長付近の光のことを近赤外光と言う。

解説5:ラマン散乱光

 物質に光をあてた際に、少し低いエネルギーになって散乱されてくる成分があるが、これは物質を構成する分子や結晶格子の振動エネルギー分だけエネルギーを受け渡して出てくるためで、その際に観測される光のことをラマン散乱光と言う。物質が光を吸収する場合には、このラマン散乱光が強く観測される。

お問い合わせ

大阪府立大学工学研究科電子・数物系専攻

教授 石原 一(いしはら はじめ)

Tel 072-254-9268Fax 072-254-9268Eメール ishi[at]pe.osakafu-u.ac.  [at]の部分を@と差し替えてください。ナノ光物性講座 石原研究室WEBサイト http://www.opt.pe.osakafu-u.ac.jp/ishilab-top.html

北海道大学大学院理学研究院化学部門

教授 村越 敬(むらこし けい)

Tel 011-706-2704Fax 011-706-4810Eメール kei[at]sci.hokudai.ac.jp [at]の部分を@と差し替えてください。北海道大学大学院理学研究院化学部門 物理化学研究室WEBサイト http://wwwchem.sci.hokudai.ac.jp/pc/