大阪府立大学テニュアトラック制 2017年11月更新
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これまでに進めてきた研究を更に発展させると共に、これまでの研究とは異なる分野にも視野を広げ、共同研究を含めた、異分野との融合研究を積極的に進めていくことにより、新たな研究へと発展させていきたいと思います。自らが提案した生物化学工学に関する独自性の高い研究を、日々精力的に実施している。筆頭研究者としての学術論文、学会発表、および外部資金獲得の件数は順調に推移してきており、今後の益々の活躍を期待している。山田 亮祐専門分野:化学工学、反応工学 工学研究科 石油資源の枯渇や、種々の環境問題を背景に、持続的に循環可能な社会を形成するため、再生可能資源である植物バイオマスや、その構成糖である六炭糖グルコースや五炭糖キシロースなどから、様々なバルクケミカル、ファインケミカル、およびバイオ燃料などの有用物質を生産する事が期待されている。特に、有用物質生産の触媒として、常温・常圧の温和な環境下で反応を触媒し、高い基質特異性や反応特異性を有する酵素や微生物を用いることで、省資源・省エネルギーな環境調和型有用物質生産プロセスを構築することが期待されている。 高い基質特異性や反応特異性を有する酵素を用いることで、省資源・省エネルギーな環境調和型有用物質生産プロセスの構築が期待できる。しかし、酵素を用いる際の問題点として、一般に高価であることや、金属触媒などと比較して、安定性が低いことなどがある。そこで、近年、安全性が高いエタノール生産酵母Saccharomyces cerevisiaeなどの細胞表層にタンパク質やペプチドなどを提示することができる酵母細胞表層提示技術が注目されている(図1)。酵母細胞表層提示技術は、産業用酵素を細胞表層に提示することで固定化酵素として利用することや、金属吸着タンパク質を細胞表層に提示することで環境浄化や金属回収に利用することや、環境の変化に応答して蛍光を発するタンパク質を提示することでバイオセンサーとして利用することなどが期待されている。特に、産業用酵素を細胞表層に提示すれば、酵母を培養するだけで安定性の高い固定化酵素が調製でき、繰返し利用することによりコストの低減が期待できる。我々は、酵母細胞表層提示技術を利用し、酵母細胞表層にα-アミラーゼやグルコアミラーゼなどのアミラーゼを提示することにより、飼料米や微細藻類などから直接バイオエタノールを生産可能な酵母菌体触媒の開発に成功している(Enzyme Microb Technol, 2011, 48:393; Energy Environ Sci, 2013, 6:1844; 他)。また、酵母細胞表層にエンドグルカナーゼやセロビオヒドロラーゼなどのセルラーゼを提示することにより、植物バイオマスから直接バイオエタノールを生産可能な酵母菌体触媒の開発に成功している(Microb Cell Fact, 2010, 9:32; Biotechnol Biofuels, 2011, 4:8; 他)。 また、近年、遺伝子組換え技術を用い、酵母S. cerevisiaeに、新たな代謝経路を導入したり、既存の代謝関連酵素の発現量を変化させて細胞内の代謝フラックスを制御したりする代謝工学により、グルコースやキシロースなどの糖から様々な有用物質を生産する技術が注目されている(図2)。我々は、代謝工学を利用し、酵母S. cerevisiaeが本来代謝できないキシロースを代謝させて、キシロースからバイオエタノールを生産可能な酵母菌体触媒を開発することに成功している(J Biosci Bioeng, 2013, 116:333; Bioresour Technol, 2013, 147:84; 他)。また、酵母S. cerevisiaeにデンプンの代謝能を付与し、さらに医薬品やサプリメントなどとして利用されるトリペプチドであるグルタチオンの生産能を向上させることにより、デンプンからグルタチオンを高生産可能な酵母菌体触媒の開発に成功している(Appl Microbiol Biotechnol, 2011, 89:1417)。Ryosuke YAMADA【略  歴】 平成23年3月、博士(工学)取得(神戸大学大学院工学研究科)。神戸大学自然科学系先端融合研究環重点研究部助教を経て、平成25年4月、大阪府立大学大学院工学研究科テニュアトラック助教に着任。テニュアトラック教員としての抱負第1メンターよりテニュアトラック教員紹介荻野 博康 工学研究科 教授図1 酵母細胞表層提示技術の応用例図2 酵母による有用物質生産研究内容H25年度採用固定化酵素 バイオセンサー 環境浄化・金属回収 ワクチン 環境応答 タンパク質 産業用酵素 抗原 金属吸着 タンパク質 金属吸着酵母 細胞 ピルビン酸 TCA サイクル グルコース バルクケミカル   有機酸   ジオール   ファインケミカル    医薬品原料   ペプチド バイオ燃料   アルコール   微生物油脂   etc. 高効率な有用物質生産プロセスを実現する酵母菌体触媒の開発8

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