大阪府立大学テニュアトラック制 2017年11月更新
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テニュアトラック教員紹介ヒトを系に含む研究であり、対象としている情報には多くのノイズが含まれますが、その中から本質的で価値のある情報を見出し、モデル化する過程に研究の面白さがあります。分析に留まらず、社会に還元できる技術提案を目指して研究を進めていく所存です。ヒトを系に含む情報処理技術の高度化に向けたCutting Edge的な研究課題に対して、斬新な発想により画期的な成果を生み出すこと、そして当該分野の発展を牽引していくことを期待しています。林 佑樹専門分野:知的学習支援システム、人工知能、ヒューマンコンピュータインタラクション人間社会システム科学研究科 これまで私は、社会的な生き物である人間にとって必要不可欠であるコミュニケーション活動や思考スキルを題材とし、ヒトの知的活動の高度化を目指して研究を進めてきました。特に、近年の情報処理技術や計測デバイスの進歩により分析可能となった、視線や身振りといった非言語的な複数のコミュニケーションチャネルを含むマルチモーダルな情報を手段とし、多人数によるインタラクション活動の支援や、高次な思考プロセスの解明といった研究課題に取り組んでいます。研究内容の一例を以下に示します。 会話を通して進展する協調学習では、グループの学習課題の達成そのものよりも学習目的に至る議論過程が重要であり、協調学習を分析・評価することを目指した研究の多くは、その場でなされる発言内容に焦点が当てられてきました。しかし、対面環境では、視線や筆記動作、ジェスチャといった非言語的なシグナルも学習を円滑に進める上で重要な役割を担うことが知られています。一方で、このような多人数マルチモーダルインタラクションは非常に複雑な現象であり、どのような振る舞いが会話に影響を与えているかは十分に分析されておらず、支援に至る実用的なシステムも実現されていません。 本研究では、協調学習時にやり取りされるマルチモーダル情報を扱うための協調学習プラットフォームを提案します。参加者や議論の状態を正確に推定するためには、非言語情報の伝達を実現できる対話環境が求められます。下図に本システムの概要を示します。マイクやアイトラッカ、デジタルペンといったセンサ機器をシステムに導入し、音声認識を通して得られる言語情報や、各種センサから得られる非言語情報を計算機がリアルタイムに処理できるように、また参加者の学習形態に合わせて利用できる教具をコンポーネントとして追加可能とし、実世界に近いインタラクションができるインタフェースとなるようにシステムを構築しています。提案環境を通して計測される学習者の言語・非言語情報を組み合わせることで、誰のどのような発言に注目が集まっているのか、誰が誰の発言に耳を傾けながらメモを取っているのかといった、高次な情報へと統合・解釈することが可能となります。これらの情報パターンを分析し、グループ参加者の役割や、議論状況の推定モデルを明らかにし、さらにそれらの情報をフィードバックとして学習者に提供するための支援機能へと展開していく予定です。 問題解決に向けた知識創造ができる議論を実現するためには、議論内容についてあらかじめ個々人で対立点を吟味し、そこから生じる指針の対立を解消するための方法を模索する「自己内対話」が重要であることが知られています。自己内対話では、自身の思考の道筋、自身とは異なる別の考え方の道筋、そしてその対立点を明確にする思考態度が求められます。 本研究では、自己内対話における暗黙的で混沌とした思考の組み上げ方を、視線情報を手掛かりに解明することを目的としています。思考過程の副産物として現れる生理的な視線情報を加味することで、学習者や成果物を添削する評定者の思考外化/修正行為に至るまでのメタ認知モニタリング・コントロール過程の一端を明らかにできる可能性があると考えています。下図に研究で構築しているシステムの概要を示します。本システムは、分析用アイトラッカから得られる視線座標に基づき、事実や指針、判断や葛藤といった思考を表現するタグを付与したステートメントや、その思考領域、各種ステートメント操作ボタンといった表示オブジェクトに対する停留時間を記録する機能を備えています。自己内対話を一から表明する過程と、作成された成果物を熟練者が添削する過程では、視線の現れ方が異なると考えられます。現在、視線情報の有用性を確かめるために、教育プログラムの実践として本システムを利用し、複数評定者の添削データを収集・分析しています。Yuki HAYASHI【略  歴】 平成24年3月、博士(情報科学)取得(名古屋大学大学院情報科学研究科)。日本学術振興会 特別研究員、成蹊大学理工学部情報科学科 助教を経て、平成26年4月、大阪府立大学現代システム科学域テニュアトラック助教に着任。(平成28年度より人間社会システム科学研究科へ所属変更)テニュアトラック教員としての抱負第1メンターよりテニュアトラック教員紹介瀬田 和久 人間社会システム科学研究科 教授研究内容マルチモーダル情報を扱うための協調学習プラットフォーム視線情報に基づくメタ認知思考プロセスの解明H26年度採用ヒトの知的活動の高度化を目指して31

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