大阪府立大学テニュアトラック制 2017年11月更新
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テニュアトラック教員紹介研究者にとって最も大事なことは、オリジナリティーです。道上先生が、これまでに培ってきた有機化学から分子生物学・細胞生物学までの幅広い知識と技術を駆使して独創的な研究を創造して下さい。ペプチド学会でも最も期待される若手研究者の一人して高く評価されています。今後の活躍を楽しみにしています。専門分野:ケミカルバイオロジー、分子生物学、タンパク質工学理学系研究科【略  歴】平成27年3月、博士(理学)取得(大阪府立大学大学院理学系研究科)。大阪府立大学大学院 理学系研究科博士研究員を経て、平成29年4月、大阪府立大学大学院理学系研究科テニュアトラック助教に着任。テニュアトラック教員としての抱負第1メンターより藤井 郁雄 理学系研究科 教授研究内容世界に誇れる研究成果を挙げるため、豊かな発想力とチャレンジ精神をもって研究に日々邁進する所存です。道上 雅孝Masataka MICHIGAMI 21世紀に入るとともにヒトゲノムの全容が明らかにされ、ゲノムから翻訳されるタンパク質の網羅的解析(プロテオーム解析)が盛んに行われるようになった。そこで、タンパク質の機能を分子レベルで理解しようとするケミカルバイオロジーという学問領域が生まれ、これまで未知であったタンパク質分子の機能解明が次々と達成されている。今後も未だ機能のわかっていない生体分子を対象に、ますます進展していくと考えられる。本分野において、標的分子に特異的に結合し作用する分子は、非常に有用な研究ツールになる。その代表例として、「抗体」が挙げられる。抗体はその高い結合活性と結合特異性を持つことから、研究ツールだけでなく、医薬品としても使用されている。しかしながら、以下の点から、その研究対象や使用方法が限定されている。 1)ジスルフィド結合を多く含むため、還元条件下である細胞内では、ジスルフィド結合が還元され変性する。すなわち、細胞内タンパク質を標的にできない。 2)抗体は動物細胞で生産されるため、非常に高価である。 3)ヒト生体内での利用においては抗原性を下げるために、ヒト化を行う必要がある。これら抗体の問題点は、抗体自身の複雑で巨大な立体構造に起因する。そのため、低分子量で単純な立体構造を持つ親和性分子 “次世代抗体” の開発が望まれている。そこで、私は helix-loop-helix 構造ペプチドを用いた次世代抗体の開発を目指している。 本ペプチドは、安定な立体構造を保持するため、生体内でも安定であり、また低分子量(3-5 kDa)であることから抗原性が低く、細胞膜透過性が高い。さらには、化学合成ができるといった利点がある。次世代抗体は、タンパク質立体構造理論と分子進化工学を組み合わせた手法で設計している。まず、安定な立体構造を持つhelix-loop-helix構造ペプチドを de novo 設計した。本ペプチドは2つのα-ヘリックスと、それらを繋ぐグリシンループの3部分から構成される。また、立体構造の形成に関与するアミノ酸残基を保存しておけば、それ以外のアミノ酸残基はどんなアミノ酸に置換しても、Helix-loop-helix構造は保持される。そこで、立体構造の形成に関与していない部分を20種類の天然アミノ酸でランダムに置換したペプチドライブラリーを構築し、本ライブラリーをM13ファージの表層タンパク質に提示させ、様々な標的タンパク質に対して分子標的ペプチドをスクリーニングしている。 私は、これまでにヒト血管内皮増殖因子A (VEGF)に結合するペプチドM49を獲得している。ペプチドM49は、抗体に匹敵するほどの結合親和力を示し(KD= 0.87 nM)、タンパク質分解酵素に対する耐性も、一般的なペプチドと比較して約240倍高いことが分かっている。現在では、本ペプチドを抗がん剤や薬物送達システムへと応用することで、次世代抗体医薬品としての可能性を検証している。Helix-loop-helix構造ペプチドは、抗体のように高い結合活性と生体内安定性を示すことから、抗体の代わりとして利用できるだけでなく、抗体が対応できなかった細胞内のケミカルバイオロジー研究にも応用できると考えている。H29年度採用機能性ペプチドの設計と生物機能の解明およびバイオ医薬品の開発ペプチドM49とVEGF複合体のX線結晶構造解析29

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