大阪府立大学テニュアトラック制 2017年11月更新
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幾何学とそれに基づく統計科学として、点過程モデルに対する尤度解析やShape Theoryの理論的側面を進展させ、それらによる、自然科学は勿論、社会科学、人文科学等、様々な分野におけるデータに対するサイエンスの可能性を探り、本研究を学際的なものへと展開していく。田中先生は、微分幾何学から空間統計学、さらにはビッグデータに対する解析の最も有力な道具である幾何学的データ解析までも研究されています。テニュアトラック助教に採用後も順調に研究を進めておられ、大阪府立大学の数学グループの大きな戦力となってくれるものと確信しています。田中 潮専門分野:微分幾何学、点過程論、空間統計、確率幾何学、Shape Theory理学系研究科 微分幾何学、点過程論、空間統計(幾何統計)、確率幾何学、およびこれらが融合し結実した分野である「Shape Theory」を研究しています。関連する分野のひとつに情報幾何学があります。これらに共通するキーワードとして、「空間」・「距離」・「測度(面積・体積の一般的概念)」が挙げられます。以下、微分幾何学、点過程論、空間統計の観点からそれぞれの研究における背景・動機について紹介します。 数学、特に幾何学では、研究対象が存在する空間(集合)を設定し、その空間上の研究対象(点や関数等)の変化を調べていきます。このとき、「空間」自体の構造によって研究対象の挙動が特定されます。また、その挙動を調べる際、空間にコンパクト性といった位相構造は、研究対象を扱い易くしてくれます。しかしながら、空間を非コンパクト化することも、それから自然に生じる問題意識のひとつです。実際、我々が存在しているEuclid空間は非コンパクト空間です。さて、研究対象として、空間上の点あるいはその集合を調べるとき、点に関してはその配置、集合に関してはその大きさ(直径等)を知ることが一つの指針となり、点過程論(後述)においても共通することです。そこで、点の位置・集合の大きさを測るものさしとして「距離」を考えます。したがって、距離を備えた空間である距離空間を考えることは自然なことと考えられます。 20世紀末より、ロシア・フランスの数学者である現代幾何学の巨人として知られるM. Gromovは、空間上に「測度」も考えられる空間、測度距離空間上の幾何学を展開し、現在も当該分野の研究者を触発しています。空間上の測度として、有限なものを考えますが、通常特に空間全体の測度が1に等しい確率(測度)を考えます。測度を考えることにより、空間の次元を十分大きくすると、測度の集中現象が生じ、点や関数等の研究対象の挙動が距離のみならず測度によっても特徴付けることができ、得られる研究対象に関する情報が豊富になります。空間の高次元化は、数学的には自然な考察であり、実際、昨今注目されているビッグデータに対する解析には、自然に高次元の空間(モデル)が対応します。 このように、素朴な数学的概念である「距離」・「測度」を手掛かりに、点や関数等を特徴付け、「空間」の構造を明らかにすることが本研究の目的です。また、以上の理論的側面を発展させ、様々な分野におけるデータサイエンスに向けて、理論的性質の可能性も探っていきます。そのためには統計科学的視点は欠かせず、幾何学的確率過程である「点過程モデル」・「空間統計」(後述)が重要な役割を果たすと期待されます。 点過程は、突発的に発生する事象を幾何学的に抽象化した点により、それが発生するメカニズムを記述する幾何学的確率過程であり、時空間統計解析における重要な一分野です。私は特に、点の配置がクラスター(Figure[左])をなす点過程モデルに関する研究をしていますが、パラメータ推定・モデル選択がその出発点でした。クラスター点過程モデルは、統計地震学における余震のモデリング、数理生物学・生態学、近年では点過程論に立脚した宇宙論の研究に代表されるように自然科学のみならず、経済学、犯罪学、考古学といった多岐にわたる分野におけるデータに対してもその応用が期待され、近年ますます重要なモデルとして認識されつつあります。特に、考古学に関するデータ解析には「Shape Theory」も有力です。 ところで、最尤法は効率的なパラメータ推定法として知られていますが、一般には、点過程モデルの尤度関数を直接的に書き下すことはできません。したがって最小二乗法によるノンパラメトリックな点過程解析法が定石でした。そこで、[Tanaka et al.(2008,Biom.J.)]では、条件付き強度関数として点過程論において重要な概念であるPalm型強度関数(Figure [右])に基づく疑似尤度解析:Palm型尤度を展開し、赤池情報量基準(AIC)により定量的なモデル選択を可能にしました。さらに、同論文で提案した2種類の重ね合わせによる拡張クラスター点過程モデルに対する疑似尤度解析のために、[Tanaka and Ogata (2014,Ann.Inst.Statist.Math.)]は、点過程の最短距離による確率分布に基づくNND尤度解析を提案しました。 現在は、重ね合わせの数に関してさらに拡張したクラスター点過程モデルに対する尤度解析法とその漸近論的性質の解明に取り組んでいます。Ushio TANAKA【略  歴】 平成19年3月、博士(学術)取得(総合研究大学院大学複合科学研究科)。統計数理研究所 特任研究員、立教大学経営学部 兼任講師を経て、平成26年4月、大阪府立大学大学院理学系研究科テニュアトラック助教に着任。テニュアトラック教員としての抱負第1メンターよりテニュアトラック教員紹介入江 幸右衛門 理学系研究科 教授研究内容Figure [左]:[Tanaka et al.(2008,CSM.)]による単位正方形におけるThomas点過程のシミュレーション。Thomas点過程は、 クラスター点過程解析において最も多くモデリングされるクラスター点過程モデルである。構成する各クラスターの点は、クラスターの中心のまわりに2次元のGauss分布N(0, σ2I)にしたがう、ここに、Iは2次の単位行列。Figure [右]: Thomas点過程のPalm型強度関数のシミュレーション[Tanaka and Ogata(2014,Ann.Inst.Statist.Math.),Tanaka et al.(2008,CSM.),Tanaka et al.(2008,Biom.J.)]。H26年度採用微分幾何学と点過程モデルによる幾何学的データ解析点過程論・空間統計微分幾何学27

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