大阪府立大学テニュアトラック制 2017年11月更新
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テニュアトラック教員紹介里山に代表される人間の生産活動と関連する景観(社会生態学的生産ランドスケープsocio-ecological production landscapes)の持続可能性が世界中で注目を集めています。海岸林もそのひとつです。モイドンのような人間の精神活動が関連するspiritual landscapesは新たな注目を集める分野と考えています。専門分野:緑地保全学生命環境科学研究科【略  歴】 平成26年3月、博士(緑地環境科学)取得(大阪府立大学大学院生命環境科学研究科)。(公財)京都市景観・まちづくりセンター、兵庫県立人と自然の博物館研究員を経て、平成29年4月、大阪府立大学大学院生命環境科学研究科テニュアトラック助教に着任。テニュアトラック教員としての抱負第1メンターより藤原 宣夫 生命環境科学研究科 教授研究内容ランドスケープの分野に必要とされる専門性と総合性の両面を磨きながら、フィールド調査や地域活動など、現場にふれる機会を大切にし、地域社会で活かされる研究・教育を進めていきたいと考えています。上田 萌子Moeko UEDA 私たちの生活に様々な恵みをもたらす緑は、人間の生存の基盤である自然の重要な要素です。私はこれまで、人間社会との良好なバランスを保った緑地の保全・創出に関心を抱き、研究を進めてきました。 なかでも、人の生活空間に近く、防災的機能や景観的機能を有す海岸部の緑地は、注目してきたフィールドの一つです。海岸部の緑地は、本来、生物多様性の拠点になるべき重要な場所ですが、開発行為を受け環境が劣化している地域がほとんどです。海岸部の緑地を再生するにあたっては、空間自体を保全するだけでなく、うまく利用することで愛着や保全へのモチベーションを育み、持続的な保全のしくみを構築することが重要であるといえます。したがって、海岸部の緑地の生態的な側面に加え、生活文化的な側面にも焦点を当て、海岸緑地に対する人間の関わり方についても研究を進めています。このような研究の一環として、貴重な海岸植生が残っている兵庫県の成ヶ島に着目し、海岸植生の現況や経年変化を調査するとともに、人為的活動が植生景観の変化に与える影響を探りました。成ヶ島では現在、絶滅危惧種に指定されている海岸植物がまとまった群落として生育していますが、50年ほど前までは全体としてクロマツ林が広がり、徐々に現状に至ったことが捉えられました。これには、地域住民による海岸植生の保全活動が一定程度寄与しており、住民の意識変化が植生景観に影響を及ぼすことが示唆されました。この他にも、衰退傾向にあるクロマツ海岸林の問題に対し、広葉樹海岸林の社会的な機能に着目し、地域社会における維持のしくみなどを探る研究に着手しています。 また、生活空間と密接に関係した、地域社会の拠り所となる「伝統的な祭祀空間」の緑地にも注目しています。「伝統的な祭祀空間」とは、神社が起こる以前の、森や樹木そのものが信仰対象となった空間を指しており、日本各地に点在しています。地域ごとに多様な形態で存続しており、地域固有の資源として地域づくりに活用できる可能性を秘めています。しかし、いずれの地域においても、少子高齢化が背景となり、消失の傾向にあるのが現状です。私はこれまで主に、鹿児島県の祭祀空間の森である「モイドン」を対象に、現状と保全・継承のあり方を研究してきました。モイドンの主要な分布地の一つである錦江町では、モイドンと集落との位置関係、存続状況、周辺土地利用の変容、地域住民の係わり方などを調査しました。その結果、モイドンは近年急速に消失あるいは敷地が縮小・移動しており、その原因として農地整備等の開発圧があったことがわかりました。また、祭りや掃除といった地域住民の係わりが減少していることや、モイドンが集落にとって空間的に重要な位置にあることが示唆されました。もう一つの主要な分布地の一つである指宿市では、市有形民俗文化財に指定されているモイドンを対象に、モイドンの立地環境・空間構成や植物相、祭りなどの行事、管理活動の変容を把握するとともに、モイドンに対する住民意識を探ることで、文化財指定の効果やモイドンを継承していくための課題を明らかにしました。その結果、市からの管理費の支給がモイドンの維持に一定寄与していることや、文化財指定自体がモイドンの周知に効果を発揮していることが示唆されました。また、今後の継承のあり方として、現状の管理主体の単位を拡大していくことが必要であると結論づけました。これらの研究成果を地域社会に還元するとともに、地域づくりへの活用方策も検討していきたいと考えています。H29年度採用人間社会との良好なバランスを保った緑地の保全・創出成ヶ島における海岸植生の経年変化錦江町のモイドン指宿市指定文化財のモイドン24

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