大阪府立大学テニュアトラック制 2017年11月更新
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テニュアトラック教員紹介図1これまでのアリ植物4者系を7者系に拡張して、ひきつづき生物群集の形成過程を明らかにします。国内では、1)絶滅が危惧されアリの巣に寄生するチョウ類の保全・復元システムの構築、2)堺市に侵入した特定外来生物アルゼンチンアリの防除に関する研究にとりくみます。上田昇平先生は、進化生物学や生物地理学の分野で国際的に見てもレベルの高いご研究をされており、DNA解析の高度な技術をお持ちです。また、外来種のアリの防除を通して地域にも貢献されており、今後の益々のご活躍に期待しております。上田 昇平専門分野:環境動物昆虫学生命環境科学研究科Shouhei UEDA 【略  歴】 平成21年3月、博士(理学)取得(信州大学大学院総合工学系研究科)。日本学術振興会 特別研究員、弘前大学 非常勤講師、信州大学山岳科学総合研究所 研究員、信州大学 研究員を経て、平成27年10月、大阪府立大学大学院生命環境科学研究科テニュアトラック助教に着任。テニュアトラック教員としての抱負第1メンターより平井 規央 生命環境科学研究科 准教授研究内容 ある場所においてかかわりをもつ生物たちの集まりを生物群集といいます。生物学では、生物群集を構成する生物たちの関係がどのような歴史を経て形成されたのかを解明することはこれまで難しいとされてきました。なぜなら、生物間の関係を写しだした化石証拠は稀で、もし化石が出土したとしても、それが起源であると証明することは難しいからです。しかし、近年、大きな発展を遂げたDNA解析の技術によって、化石の証拠がなくても、生物が起源した年代が推定できるようになりました。つまり、生物群集にかかわる生物それぞれについてDNA解析を行い、起源年代を推定することによって、生物間相互作用形成の歴史を解明することができるようになったのです。そこで私と共同研究者らは、熱帯アジアに分布するアリ植物をめぐる相互依存系を材料として、群集形成の歴史的過程を明らかにすることを研究目的としました。 体内にアリを住まわせる性質をもつ植物をアリ植物と呼びます。東南アジア熱帯雨林に分布するオオバギ属29種はアリ植物で、シリアゲアリ属17 種に中空の幹内を巣場所として提供しており(図1)、その巣内にはカイガラムシ類Coccus属約10種が共生しています(図2)。植物は、生息場所だけではなく、托葉や新葉から次々に分泌される栄養体や(図3)、カイガラムシが分泌する甘露などの餌資源もアリに与えます(図4)。それらの見返りとして、アリは食葉昆虫を撃退し、時には植物に絡み付くつる性植物を枯らすこともあります。一方、オオバギをめぐる系には、寄生者として、ムラサキシジミ属のシジミチョウも関与します。これらのシジミチョウ幼虫は甘露を与えることによってアリの攻撃をまぬがれ、オオバギの葉を摂食します(図5)。このように、オオバギに関与するそれぞれの生物は、宿主となる植物に特殊化しているので、その他の植物といっさい関係を持つことはありません。さらに、特定の分類群のみで構成されているので、群集の形成過程を研究するには好適な研究材料です。 以上の4者のうち、オオバギとアリに関しては化石とDNAの情報から起源年代を推定した研究があり、両者の関係は約2,000万年前に起源したことが判明していました。私と共同研究者らは、熱帯アジア広域から採集したカイガラムシとシジミチョウのDNA解析をおこない、起源年代を推定し、両者がアリ植物系に参入した時期を調べました。その結果、カイガラムシは約800万年前に、シジミチョウは約200万年前に起源したことが推定されました。つまり、カイガラムシとシジミチョウは、植物とアリが共生を結んだ2,000万年前には存在せず、ずいぶん後になってからオオバギ系に参入したことになります(図6)。これらの結果は、アリ植物をめぐる生物群集が、オオバギ・アリ共生を基盤として、次々とメンバーの参入がおこることで形成されたことを示しています。この成果は、高等生物の4者系における多様化の歴史を再構成した世界で初めての研究であり、熱帯地方における種間関係の起源や多様化について新知見をもたらしました。アリ植物をめぐる生物たちのつながりの歴史図2図3オオバギアリカイガラムシシジミチョウ約2000約800約200中新世鮮新世更新世2,300533258熱帯雨林の誕生とともにオオバギ・アリ共生が起源カイガラムシが遅れて参入3者共生系にシジミチョウが寄生を開始(万年前)現在   アリ植物オオバギをめぐる生物群集の形成過程。約2,000万年前、熱帯雨林の起源とともにオオバギ・アリ共生が起源した。約800万年前、第3の共生者であるカイガラムシがオオバギ・アリ共生に参入した。約200万年前、食菜者であるシジミチョウがオオバギ系に参入した。アリ植物オオバギ属の一種Macaranga bancanaの幹内の空洞に営巣したシリアゲアリ属の一種Crematogaster borneensis。働きアリが女王アリを取り囲んでいる(撮影:小松貴)。アリ植物オオバギ属の一種Macaranga bancanaの幹内の内壁にとりついたヒラタカタカイガラムシ属の一種Coccus penangensis。幹内の空洞は共生シリアゲアリ類の巣となっており、働きアリがパトロールしている(撮影:小松貴)。ヒラタカタカイガラムシ属の一種Coccus penangensisが分泌した甘露をなめる働きアリ(撮影:小松貴)。アリ植物オオバギ属の一種Macaranga bancanaの新葉を食べるムラサキシジミ属の一種Arhopala amphimuta。シジミチョウ幼虫は共生シリアゲアリ類の働きアリによって防衛される(撮影:上田昇平)。アリ植物オオバギ属の一種Macaranga bancanaの托葉の中にぎっしり詰まった栄養体(白い粒)。働きアリはこれを収穫し、巣内に持ち帰り、アリ幼虫に与える(撮影:小松貴)。図5図4H27年度採用図623

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