大阪府立大学テニュアトラック制 2017年11月更新
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新しい研究手法も積極的に取り入れ、RNAを介した遺伝子発現制御の分子メカニズムを明らかにし、生命現象の謎を解き明かしたい。テニュアトラック期間内に業績を出すことは勿論、新しいことに果敢に挑戦できる若手研究者の育成にも努めたい。日本でも導入する大学が増えてきたテニュアトラック制には、良い面もあれば望ましくない面もあります。本学のテニュアトラック制の良いところをうまく利用して、研究業績を伸ばすとともに、教育への貢献度も高めることを期待しています。岩田 雄二専門分野:分子生物学、生化学、植物細胞生物学生命環境科学研究科 RNAを介した遺伝子発現制御が植物の生長・発達やストレス応答・栄養応答において重要な役割を果たすことが近年明らかになってきました。私はRNA結合タンパク質やRNA分解酵素に着目し、分子生物学・生化学・細胞生物学的な手法を用いてそれらの分子機能を明らかにし、RNAを介した遺伝子発現制御の分子メカニズムを明らかにし、植物分子育種において有効利用するための知見を得ることを目的に研究を行っています。 分子生物学にはセントラルドグマと呼ばれる概念があります。これによると、ゲノムDNAにコードされた遺伝子情報がメッセンジャーRNAに転写され、タンパク質に翻訳され、出来上がったタンパク質は細胞内外で多様な機能を発揮し、生命活動を支えるわけです。このセントラルドグマにおいては、RNAはDNAとタンパク質の橋渡しをする中間産物的な存在として扱われています。ところが近年の研究により、RNAは転写からタンパク質合成、タンパク質輸送までの遺伝子発現のほぼ全ての段階に関与する機能性分子であることも明らかになってきました。RNAを介した新たな遺伝子発現制御が次々と解明され、特にノンコーディングRNA(noncoding RNA、ncRNA)と総称される、タンパク質の情報をコードしていないRNAが生体内には大量に存在し、生命現象を理解する上で非常に重要な役割を果たしていることが明らかになってきました。一般的に、生物種が高等になるほど多くのノンコーディングRNAを持っており、より複雑な高次機能を担っていると考えられています。 真核生物において20-24塩基からなる低分子RNA(small RNA)はノンコーディングRNAの代表的なもので、RNAサイレンシングまたはRNAi(RNA interference)と呼ばれる機構によって遺伝子発現制御に重要な役割を果たしています。その中でも、20-22塩基からなるマイクロRNA(microRNA、miRNA)は、植物においては発達・分化の制御、環境ストレス応答、病害応答、栄養応答など、非常に多岐にわたる生理機能を制御する重要な遺伝子発現制御因子であることから、活発に研究され始めており、また人工miRNAを用いた特定の遺伝子の機能抑制にも応用されてきています。miRNAは部分的なヘアピン構造を取る前駆体RNAとして転写され、Dicer-Like 1(DCL1)と呼ばれるRNA分解酵素によって20-22塩基長のRNAに切断されます。生成したmiRNAはArgonaute 1(AGO1)と呼ばれるタンパク質と複合体を形成し、標的mRNAに塩基配列依存的に結合し、mRNA分解や翻訳抑制を引き起こすことで遺伝子発現制御が行われます。DCL1やAGO1以外にもHyponastic leaves 1(HYL1)、Serrate(SE)、Dawdle(DDL)、Cap binding complex(CBC)など様々なタンパク質がこの過程で機能することが、シロイヌナズナの研究を中心にして明らかにされています。私はこれらのタンパク質を分子生物学・細胞生物学・生化学などの様々な手法を用いて解析しそれらの分子機能を明らかにし、得られた知見を細胞・個体レベルでの現象に還元することで、植物におけるmiRNA生成・機能を包括的に理解することを目指しています。Yuji IWATA【略  歴】 平成17年6月、博士(バイオサイエンス)取得(奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科)。奈良先端科学技術大学院大学 COE研究員、ペンシルバニア州立大学 博士研究員、アブドゥラ国王科学技術大学 博士研究員を経て、平成25年3月、大阪府立大学大学院生命環境科学研究科テニュアトラック 助教に着任。テニュアトラック教員としての抱負第1メンターより小泉 望 生命環境科学研究科 教授研究内容H24年度採用植物マイクロRNA生成・機能の分子基盤テニュアトラック教員紹介21

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