大阪府立大学テニュアトラック制 2017年11月更新
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辻 洋公立大学法人大阪府立大学理事長・学長 今から20数年前のことである。大学時代の後輩から「テキサス大学オースティン校でテニュアをとった」という話を聞いた。私は、終身雇用で民間企業に採用されていたこともあり、どういうことか意味が分からなかった。大学教員として転職後、興味深い論文を雑誌の中にみつけ、それを書いている米国の若い研究者を訪問した。「テニュアをとるために研究成果を出さなければならない」ということで馬車馬的に研究していた。テニュアトラック制が、若い研究者にとって、大きなインセンティブであることを身近に感じた。 時代の移り変わりを3つに分けて、職業・職位の決まり方について極論してみよう。江戸時代までは身分によって職業が決まっていた。武家に生まれれば武士、農家に生まれれば農民と決まっていた。その後、高度成長時代に学歴社会・終身雇用社会となり、卒業した大学や学部で職業が決まり、年功序列で職位が決まるようになった。そのため、受験戦争が起こり、合格したとたんに勉強しない学生も多く、社会問題にもなっていた。時代は変わり、最近は、キャリアパスとしての転職はごく自然になり、年齢や学歴で職位が決まることは薄らいだ。それとともに生涯にわたって継続的に学習すること、自己啓発することが大切になっている。生涯学習社会の到来である。 大学でのキャリア形成についてみてみよう。伝統的な小講座制は我が国の科学技術を欧米並みにすることに大きく貢献した。ある専門分野の教授が自分の経験をもとに弟子を徒弟的に養成するのである。つい最近まで、職名は学生をおしえる「助教」ではなく、教授を支援する「助手」であった。教授の率いるチームで研究を行い、教授の知識・技術を若手教員に伝承する。情報・知識の入手元は教授に大きく依存していた。一方で、我が国の科学技術レベルが欧米並みに追いつくとともに情報の入手がインターネットなどで可能となった今日、伝統的なキャリア形成の変遷からみたテニュアトラック制制度では弊害もでてきている。ボスとしての教授の下で研究をするだけでは、自由な発想ができないのである。このような弊害を打破するための議論はすでに10年前からなされている。 平成18年からの第3期科学技術基本計画においてテニュアトラック制が開始された。本学においても、平成20年から「ナノ科学・材料分野の世界的拠点」を構築することを目指し、文部科学省の支援を受けて、制度を導入した。プログラム支援後は本学独自の拠点型テニュアトラック制として引き継がれ、すでに12人がテニュア資格を取得している。このプログラムは中間評価においても最終評価においてもすべて最優秀の「S」評価を受けており、本学として誇りとするところである。 第4期計画においては、テニュアトラック制の「普及」と「定着」の取り組みが求められ、工学研究科・生命環境科学研究科・理学系研究科・人間社会システム科学研究科・研究推進機構が制度を採用し、国際公募に不向きな分野以外の若手採用人事ではすべて部局型テニュアトラック教員として採用する方針としている。 平成28年度からの第5期計画では、人材、知、資金の好循環システムの構築が四本柱の一つとされている。テニュアトラック制の導入が大学には原則求められ、若手本務教員の一割増も目標とされた。他機関と連携する力、起業する力も若手教員に必要とされ、人材の移動が促進される。 テニュアトラックの教員は単に研究だけを行えばよいのではなく、教育や地域貢献の力をつけることに加え、高い科学者倫理を備えていることを期待している。そのため、研修制度を作成し、平成31年からの採用者に対しては、授業デザイン研修、研究費不正防止研修などを必修、科研費書き方セミナー、情報セキュリティ研修などを選択とし、5年間の合計で30時間程度の受講を義務付けてキャリア形成を支援していく。1

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