大阪府立大学テニュアトラック制 2017年11月更新
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テニュアトラック教員紹介桑田 祐丞工学研究者はテーマを広げながら、生涯に渡り多くの課題に挑むものですが、基幹となる研究スタイルがぶれるとその世界ではなかなか認められません。テニュアトラックの期間に自身の基幹スタイルの確立を目指して励んでください。桑田 祐丞専門分野:機械工学(熱流体工学)工学研究科【略  歴】 平成27年9月、博士(工学)取得(大阪府立大学大学院工学研究科)。日本学術振興会特別研究員、東京理科大学理工学部機械工学科助教を経て、大阪府立大学大学院工学研究科テニュアトラック助教に着任。テニュアトラック教員としての抱負第1メンターより須賀 一彦 工学研究科 教授研究内容数値シミュレーション・理論構築・実験など多くのことにチャレンジし、研究や教育を通じて社会の発展に貢献したいと考えています。Yusuke KUWATA 一般的に、水や空気などの流体流れは壁面に生じる摩擦抵抗により、多大なエネルギ損失を余儀なくされる。とりわけ、壁面に粗さ(凹凸)がある場合、壁面近傍で流体は激しく乱れ、流体摩擦抵抗は増大する。例えば、大型船舶などでは塗装ムラによって生じる100マイクロメートル程度の粗さでさえも、30~40%もの摩擦抵抗を増大させ、燃費の悪化を引き起こす。さらに、高温の燃焼ガスに常時さらされるガスタービン翼においては、経年劣化によって生じる微小な表面粗さでさえ、ガスタービンの性能を著しく減少させることが知られており、流体運動を伴う製品設計の際には粗面の影響を常に考慮する必要がある。このような経緯があり、粗面に生じる流体摩擦抵抗の予測は、工学的に非常に重要な位置づけにある。 粗面の摩擦抵抗を予測するために、1930年代から粗面に接する流体運動を明らかにするための実験が精力的に行われ、摩擦抵抗予測式が数多く提案されてきた。しかし、それらの中には物理的根拠が明確でないものも多く、適用範囲は限定的であり、現在においても、粗面の摩擦抵抗の大きさを汎用的に予測できる手法は確立されたとは言えない状況にある。その原因の1つに、実験では粗面近傍の流動を完ぺきに計測することが困難であり、流動現象を十分に理解できていないことがあげられる。そこで、私は粗面近傍の流動の数値シミュレーションを行い、流体摩擦抵抗の増大メカニズムを明らかにし、より理論的に流体摩擦抵抗の予測を行うことを考えた。図1に粗面近傍の大規模流動シミュレーションによって得られた乱流渦(乱れ速度による渦)の可視化結果を示す。可視化図からも、粗面近傍で流体が激しく乱れ、多くの乱流渦が存在していることを確認することができる。 このような詳細な数値シミュレーションによって得られたデータを統計的に処理することで、流体摩擦抵抗が増大するメカニズムを詳細に調べた。その結果、粗面要素の表面に生じる圧力・粘性抵抗の大きさを数学的にモデル化することで、粗面の摩擦抵抗の大きさを予測可能であることを明らかにした。 そこで、粗面要素の表面に生じる圧力・粘性抵抗を簡単な形で代数的にモデル化することで、粗面近傍の流れを予測する数学モデルを考案した(図2参照)。モデルを用いた粗面近傍の平均的な流体速度の予測結果を図2に示す。数学モデルを用いた予測結果は、粗面に生じる摩擦抵抗の増大による平均速度の減少をよく再現できていることが分かり、モデルの有用性を確かめることができた。さらに、詳細なシミュレーションではスパコンを用いても結果を得るために、数日程度を要するのに対し、考案した数学モデルを用いた予測は一般的なPCで数分程度で実行することができ、工学的に非常に期待できる手法であると言える。今後は、様々な形状の粗面に対して開発した数学モデルのパフォーマンスを検証していく予定である。H29年度採用粗さをもつ壁面に生じる流体摩擦抵抗の予測法の開発図1.実在塗料粗面上の乱流渦構造の可視化(バルクレイノルズ数15,000) コンターは瞬時主流速度を表し赤色は高速、青色は低速を表す図2.詳細解析・数学モデル解析の概要と、モデル解析による平均速度の解析結果16

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