大阪府立大学テニュアトラック制 2017年11月更新
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グローバルイノベーションの担い手として、新しい分野に臆することなく挑戦し、未知の世界に踏み出す高揚感を楽しむことができる研究者です。新たな出会いを利用してお互いがさらに発展する、桐谷先生はまさにそのもので私たちも毎日刺激を受けています。ナノ材料・ナノエレクトロニクス・有機-無機ハイブリッドデバイス・錯体化学・超分子化学工学研究科【略  歴】 平成21年3月、博士(工学)取得(京都大学大学院工学研究科)。東京大学生産技術研究所特任助教、日本学術振興会海外特別研究員、カリフォルニア大学バークレー校博士研究員を経て、平成28年4月、大阪府立大学工学研究科テニュアトラック助教に着任。テニュアトラック教員としての抱負第1メンターより藤村 紀文 工学研究科 教授研究内容自分の色が見える研究を行いたいと考えています。化学や物理、エレクトロニクスの枠に囚われない新たな研究領域へと繋げてゆくことが目標です。桐谷 乃輔Daisuke KIRIYAテニュアトラック教員紹介 私たちの生活を支える多種多様な電子機器は、電子材料を核として作られています。その代表であるシリコンは、トランジスタをはじめ多くの素子で利用されています。しかし、近年では素子の小型化・高性能化が加速し、シリコンよりも薄く、高い性能を発揮できる材料の開拓が求められています。 私は、ポストシリコン材料として期待される一次元ワイヤ状あるいは二次元層状の無機ナノ材料に、分子化学の視点を加えた新しい電子デバイスの実現を目指しています。中でも、蜂の巣状の格子を持つ層状化合物である遷移金属カルコゲナイドを中心に研究をしています(図1)。この遷移金属カルコゲナイドは、一層の厚さが約0.7 nmという極薄の無機化合物です。半導体特性を示すため、従来品より格段に薄いトランジスタや発光デバイスを形成できると期待されています。しかし、半導体材料として利用する際に欠かせないキャリア制御(電子や正孔の量や安定性の制御)法が確立されていません。そこで私が取り組んでいるのは、遷移金属カルコゲナイド表面に分子性材料を載せる(接合する)という手法の開拓です。一例として、ベンジルバイオロゲン分子を遷移金属カルコゲナイドの一種である二硫化モリブデン(MoS2)へ接合させた結果、電子移動の発現によりキャリア濃度の制御が可能となります。キャリア濃度を変えることで、MoS2は元来の半導体特性から金属特性を示すようになることを見出しています(図2a)。その他にも、元来ほとんど発光特性を示さないMoS2に対して、超酸分子を表面に接合させると、発光特性を数百倍上昇させることが可能であることも示しています(図2b)。光の利用効率の指標である量子収率については、1%程度から100%近くへと上昇していることが確認されています。これは、生成したキャリアの安定性の上昇を示唆しています。上述の現象は、いずれも無機ナノ材料に分子性材料を接合するという簡便な処理によるものであり、理学および工学両面からのさらなる検証・応用の余地があります。 私が異分野融合という言葉を知ったのは、今から10年程前、大学院生の頃でした。とある講義での、「他分野の人間は、研究に新しい視点をもたらし得る。これからは物理・化学・生物といった学問の区分に囚われずに、分野の壁を超えた研究を展開してみてはどうだろう。」という教授の言葉がきっかけです。当時、私は分子の合成を中心とする化学分野で研究を行っていました。新しく作った分子がどのように利用できるのかを模索して数年が経った頃、分野の異なるナノエレクトロニクス研究の世界に飛び込みました。分子は数えられるほどの原子で構成され、独立した柔らかい骨格を持っているため、その多くは高い安定性の獲得が難しく確立した加工法もありません。そのため、現時点ではデバイスへの応用は一部にとどまっています。それだけに、まだまだ展開の余地があると考えています。複数の分野を融合し協奏的に機能させることによる新たな価値の創造を目指し、分野の枠に囚われない研究を行っていきたいと考えております。H28年度採用異分野融合研究で分子の応用可能性を探る無機ナノ材料への分子の活用に向けて異分野融合で分子の応用可能性を探る図1.遷移金属カルコゲナイドの結晶構造。図2.(a)分子/MoS2接合界面を有するトランジスタの模式図と分子接合(分子処理)前後における半導体/金属的状態間の転移挙動。(b)分子とMoS2の接合界面前後における発光強度の変化。分子との接合によりMoS2の発光強度が数百倍に上昇している。15

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