大阪府立大学テニュアトラック制 2017年11月更新
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化学分析と褐藻の生活史制御を合わせ、新たな知見及び研究分野の創出を目指して頑張ります。外部資金の獲得が順調に進んでいるのは、喜ばしいことである。今後も研究成果の公表を積極的に進めて欲しい。また、学生の卒業研究指導にも力を発揮して欲しい。岩井 久典専門分野:分析化学、環境保全学、藻類学 工学研究科 コンブ等の大型藻類は、出汁や食品としてだけでなく、増粘剤や工業用材料としても活用されており、我々の生活に馴染み深い存在となっています。また、海藻群落(藻場)は、魚貝類の餌や住家となり、沿岸生態系保全及び水産資源確保の観点からも重要な役割を担っています。しかし、近年、藻場の衰退が問題になっており、藻場の再生・保全が必要とされています。これまで様々な原因が考えられていますが、藻場の衰退の原因を科学的に特定する手段は未だ無く、藻場の保全に向けた適切な対策ができていません。この問題の解決には、海藻の生態の理解が必要不可欠と考えています。コンブ等の褐藻類はユニークな生活史を有しており(図1)、巨視的な形態(胞子体)と微視的形態(遊走子、配偶体)を繰り返しています。我々の良く知る姿である胞子体の形成には、雌雄の配偶体が生殖生長し、両配偶子が受精しなければなりません。この生殖生長は、水温や鉄濃度などの生育環境の影響を受けやすく、藻場の保全における重要な生長段階と言えます。私の研究では、この配偶体の生殖生長における性ホルモンの寄与、脂質組成に表れる生長状態又は環境応答の解析を行っています。これらの研究により、化学分析による生長状態の評価手法を確立し、各地の沿岸域の海藻の生長状態を診断できる技術へと発展させたいと考えています。 腐植物質は、植物、微生物及び動物の遺骸の分解物から成る、土壌及び水圏環境中に偏在する無定形の高分子有機物です(図2)。腐植物質は土壌への炭素固定、微生物の栄養源、有害有機物や重金属の毒性低減など、自然環境中で様々な働きをしています。腐植物質の構造中には、酸性官能基やキノン系の部位が偏在しています(図2)。この構造的特色は、金属に対する錯形成能や還元能に反映されます。これは、水圏環境中の微量金属の溶存性、移動性及び生物利用性を考える上で無視することのできない腐植物質の機能です。例えば、褐藻の生殖生長には溶存鉄が必要ですが、腐植物質を用いると、人工キレート剤の場合と比べて低い濃度の鉄でも生殖生長が可能になります(J. Appl. Phycol, vol.27, pp.1583-1591)。現在、沿岸域への人工的に溶存鉄を供給する藻場再生の技術が検討されていますが、鉄の溶出にも腐植物質が関わると考えられています。私の研究では、環境中での腐植物質と金属との相互作用及びその機能を用いた環境技術の検討を行っています。腐植物質による褐藻に対する鉄の生物利用性向上への寄与は、陸と海の繋がりを解く鍵と言ってもよい興味深い機能の一つですが、そのメカニズムは腐植物質の錯形成能からだけでは説明できません。現在、その機能の解明及びその簡易評価手法の開発も検討しており、腐植物質の機能を環境保全技術へ応用したいと考えています。Hisanori IWAI【略  歴】 平成26年3月、博士(工学)取得(北海道大学大学院工学研究科)。平成26年4月、大阪府立大学大学院工学研究科テニュアトラック助教に着任。テニュアトラック教員としての抱負第1メンターよりテニュアトラック教員紹介山﨑 哲生 工学研究科 教授図1.褐藻の生活史図2.腐植物質のモデル構造(Stevenson 1982)研究内容海藻の生長評価腐植物質の機能H26年度採用沿岸環境保全に向けた分析化学と藻類学からの新たなアプローチ12

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