大阪府立大学テニュアトラック制 2017年11月更新
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角度分解光電子分光で電子一つを見る地域に根ざした社会貢献活動学生を世界最先端の研究の場に導き、研究を通した教育から学生の成長を手助けしていきます。また、大学で獲得した「知」を社会に還元する大切さを伝えていこうと思います。自分の研究を冷徹に評価できる人です。多少自己評価が厳しすぎると感じることもありますが、研究に取り組む姿勢は常に前向きで、精力的に研究を進めています。研究内容を分かりやすく人に伝えるということにも努力を惜しまず、説明責任を求められる昨今の状況にうまく適合できる人材です。安齋 太陽専門分野:放射光を用いた固体試料の電子状態の研究 工学研究科 高度先端技術は日本の産業の土台であり、今後もますます重要性を増していくと考えられています。その中で希土類元素を含む化合物は、幅広い用途・製品の性能を向上させる必須の材料として活躍しています。この希土類化合物が示す優れた性能は、原子核に捕らわれている f 電子と固体内を動き回る伝導電子が互いに影響し合うことで創出されます。材料の特性を最大限に発揮させるためには、電子の状態を詳しく調べる必要があります。 固体中の電子の状態を調べる有力な実験手法の一つが角度分解光電子分光法です。角度分解光電子分光は、光電効果により真空中に放出された光電子のエネルギーと運動量を観測し、バンド分散を直接的に決定することができる手法です。バンド分散の形状には物性を理解するためのヒントが含まれており、バンド分散を精密に観測することが重要となります。私は、励起光源に低エネルギー放射光を用いることで世界最高レベルの実験分解能を得ることに成功しました [1,2]。現在、この手法を希土類化合物に応用して研究を進めています。 希土類化合物では、電気や熱を伝える電子の質量が重くなっており、その重さは通常の電子の数百倍にもなります。この奇妙な現象は、伝導電子が f 電子の影響を受けて動きにくくなった結果だと考えられています。したがって、相互作用の強さを明らかにすることが重要となります。最近の私の研究から、 YbInCu4 のバンドが二つに分裂する様子を観測し、その分裂幅から相互作用の強さを定量的に評価することに成功しました。誰も見たことのない世界初の結果に、私も学生さんも一緒に喜びました。今後は、バンド分散の温度や組成に関する情報から、希土類化合物の相転移現象について研究を進めていこうと思っています。 先端研究で得た知識は、様々な環境にある人と共有され、役立てられる必要があります。私は、研究に携わるだけではなく、科学を用いた社会貢献活動にも積極的に取り組んでいます。心がけていることは、科学現象をその場で見せて聴衆と対話する Science Communication です。人は、教科書の説明を読むだけでは理解できないことも、物事を一つ経験すると深く学ぶことができます。そのため、科学の面白さを伝える上で実験はとても良い方法です。私は、子どもの五感や感情を刺激するような演示実験を日々考え、小学校や地域のイベントにて披露しています。子ども達が科学の不思議に触れて喜ぶ姿を見ると、この仕事をしてきて本当によかったと感じます。演示実験は私の授業にも取り入れています。学生さんには物理現象の理解に悩み苦しむことで、大きく成長してほしいと願っています。私は、このような Science Communication を通じて、科学の楽しさやそれを学ぶ大切さを多くの人に伝えていきたいと思っています。Hiroaki ANZAI【略  歴】 平成23年3月、博士(理学)取得(広島大学大学院理学研究科)。日本学術振興会 特別研究員、呉工業高等専門学校 非常勤講師、広島大学放射光科学研究センター 研究員を経て、平成25年4月、大阪府立大学大学院工学研究科テニュアトラック助教に着任。テニュアトラック教員としての抱負第1メンターよりテニュアトラック教員紹介岩住 俊明 工学研究科 教授希土類化合物における角度分解光電子分光法の模式図真空をテーマにした演示実験の様子研究内容H25年度採用世界最先端の研究を通じた教育[1]H. Anzai et al., Phys. Rev. Lett. 105, 227002 (2010). [2]H. Anzai et al., Nature Communications 4, 1815(2013).10

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